幻水で108のお題

□1. 門出のとき
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1. 門出のとき/ルック坊(シェル)




 シェルは人々の笑顔を見ていた。


 シェルは人々の歓声を聞いていた。


自分が成し遂げた事は間違いではなかった。


 心からそう思えた…。



(私はもう、用済みだ。私がいなくても、もう…大丈夫だ。『英雄』がいなくても、みんな…大丈夫…)

 人々が喜びを噛み締めている最中、シェルはそっとグレッグミンスターを後にした。



 夜が明け、シェルは眩しそうに朝日を眺める。冷たい空気をいっぱいに吸い込み、ぐっと背伸びをした。


『…行くのかい?』


 風に乗り、聞き慣れた声が耳に入る。それに驚き、彼女は慌てて振り返った。

 そこには、風を纏ったルックが立っていた。その表情は、少しばかり不機嫌そうだった。

「ルック…」

「…行くのかい?」

 先程の質問を繰り返し、ルックはシェルを見上げる。小柄なシェルだったが、ルックよりほんの少しばかり身長が高い為、彼女を見上げるという形になってしまっていた。

 シェルはくすりと笑って見せると、真っ直ぐにルックを見据えて口を開く。

「平和になったこの国に、英雄(私)は要らないよ。それに…」

 言葉をそこで切り、彼女は右手をひらつかせて見せる。

「この紋章が、戦乱を呼び寄せる前に行かなきゃ」

 ルックもそれは分かっていた。けれど、レックナート以外に初めて心を許した相手が、自分に黙って旅立つのが、許せなかったのだ。

「…これが今生の別れってわけじゃないでしょ。私も君も、生きていれば必ず何処かで会えるよ」

 そう言われてしまえば、返す言葉が出て来ない。彼女の決意はそれ程までに…。

「固いんだね…、その決意は…」

 搾り出す様にして、それだけ呟く。声が震えなかったのは奇跡だろうか。ルックはそんな事を頭の片隅で考えた。

「…うん。私、今までずっと子供扱いされてきたでしょ?だから、独りで行きたいんだ…」

 そして彼女は言葉を続ける。

「『トランの英雄』でも『テオ・マクドールの子供』でもない、私個人の…『シェル・マクドール』の門出にしたいから…」

 そう言って、彼女は清々しい笑顔をルックに見せた。

 ルックは小さく溜め息を吐き、シェルの胸倉を掴んで自分の方へ引き寄せた。そして。

「…次に会う時は、必ずアンタの身長抜いて見せるから…」

「私、身長低いし、ルックは男の子だもん。すぐに私の身長なんて抜かしちゃうよ」

 クスクスと笑う彼女。それに何故かムッとしたルックは、彼女のやわらかな唇に接吻(口づけ)た。

 慌てて彼から離れ、シェルは唇を手で覆った。その顔を真っ赤に染めて。

「る…、ルック!?」

 色々と言いたい事…主に苦情だが、混乱しているせいか言葉が出てこず、彼女は彼の名を呼ぶのが精一杯だった。それが分かっているのか、ルックもけろりとして言った。

「ただの『お祝い』だよ?門出のね」

「お祝いって…」

「…風の祝福があるように…。じゃあね」

 去り際、照れて赤くなった顔を彼女に見られたくなかったルックは、振り返ることもせずに姿を消した。

 一人取り残されたシェルは、ルックがいた辺りを呆然として見つめていた。

「祝福…?」

 ぽつりと呟けば、暖かな南風が追い風となって吹き抜けた。

(応援…してくれてるの…かな?)

 深く息を吸い込み、一気に吐き出した。


「行ってきます」

 力強く口にして、彼女は一歩を踏み出した。


彼の言った『次に会う時』を楽しみにして…。


End〜
あとがき↓
ビミョー…?
うん、何かビミョー。
リハビリ期間って事で許してください;
うちのルックとシェルは、表だと2で結ばれます。裏だと1のグレッグミンスター突入前ですががががが。
とりあえず、この話は表なのでまだ結ばれてません。お互い片思い。
その辺りの話も、ちゃんと書きたいです♪

しかし、108のこのお題…ちゃんとこなせるのだろうか…(-.-;)
がんばります;
2011.02.03 UP
 

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