☆ Little Honey ☆

□LH05
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むにっ

柔らかい何かが頬を押して来る。

むにっむにっむにっ

「う…ん?」

重い瞼を薄っすらと開ければ小さな足が見えた。

そしてペロリと頬を舐められる。

「ガゥガゥ」

「…ナッツくん?」

「ガウ」

ぼんやりと呼びかければ小さな動物は返事をするように一つ鳴く。

どうやらナッツが寝ているさくらを起こしてくれたらしい。

「ありがとう」

瞼を擦りながら体を起こせば広いベッドの上にいるのはさくらとナッツのみ。

寝るときに一緒に居たはずのツナの姿は今は無かった。

地下だからか明確な時間は分からないが寝過ごしてしまったようだ。

「ツナくん?」

室内にいないだろうかと呼びかけて見るが返事は無い。

しんと静まる部屋の中でさくらは心細さが込み上げて来るのを感じた。

急いでベッドから降りるとスリッパを履くのも忘れて部屋を飛び出した。

ナッツが驚いてその後を慌てて追いかけて行く。

ぺたぺたと足音を立てて向かった先はさくらが知る数少ない場所、キッチンだった。

焦りながら勢い良く飛び込めばガランとした室内にいたのは片付けをする獄寺。

勢い良く入って来たさくらに獄寺は驚きつつもニッと笑ってみせる。

「おう、目が覚めたか。良く眠れたか?」

「隼人く…コホッ、ゴホゴホゴホッ」

「お、おいおい大丈夫か!?」

返事を返そうとして咳き込んださくらがそのまま苦しそうに膝をつくと獄寺は側に駆け寄った。

苦しそうに咳をするさくらの背を撫でながらその足元を見て驚くとさくらを抱え上げた。

「おまっ…裸足じゃねぇか、しかもパジャマだし…ちょっとここに座ってろ」

さくらを椅子に座らせると水をグラスに汲んで目の前にトンと置く。

一口二口とさくらが飲むのを見届けると今度はタオルを濡らしてきて足元に屈みこんだ。

「…無理して走るんじゃねぇよ、どうしたんだ?」

細い足首を掴んで獄寺は丁寧な手つきで拭って行く。

いくら幼いとは言え、訳も無く無茶をやるような子ではないと知っているからこそ尋ねた。

さくらはじわりと瞳を潤ませて切れ切れに答えた。

「お、起きたら、ツナく…いない…から…」

「そうか、十代目はゆっくり寝かせてやるつもりで悪気はなかったんだ」

獄寺がそう言ってやるとさくらは手で涙を拭いながらなんども頷く。

少し呼吸が落ち着いたのを見計らって獄寺は再びさくらを抱き上げた。

片腕に乗せる様にしてキッチンのドアへと歩いて行く。

「隼人くん?」

「心配すんな、すぐ十代目の所に連れてってやる」

ドアを開けると廊下で待ちうけるようにナッツが座り込んでこちらを見上げていた。

さくらが飛び込んだ後、間に合わずに入れなかったらしい。

獄寺が出て来ると今度はその後を追いかけるように付いて行った。

「…お前、軽いな。もっと太らねぇと良い女になれねぇぞ?」

「……10年後の私…良い女じゃない?」

腕にかかる重みがあまりに少ない事に思わず軽口を叩いてみればさくらは至極真面目な顔でそう返してきた。

そうだった、幼いさくらに取って自分は答えを知っているようなものだった。

自分の言葉に早くも後悔し苦虫を噛み潰したような顔で獄寺が返した台詞は短い。

「…十代目に聞け」

「………」

獄寺の表情とその言葉にさくらは眉根を寄せる。

それを見て獄寺は内心舌打ちをしつつ頭をかく。

「あー…悪くねぇから安心しろ」

「ほんと?」

「ああ」

なんとも不器用な言葉だかどうやらさくらはそれでも安心したらしい。

そして目的地であるモニタールームに着くとここだと言ってそのドアを開けた。

「十代目」

ジャンニー二とモニターを眺めるツナに声をかける。

すると直ぐに顔を上げてこちらを見た。

「獄寺くん?っと、さくらちゃんも一緒か…あれ?どうしたの?」

獄寺に抱えられピタリとくっつき元気のないさくらの様子にツナが聞いた。

「起きたら十代目がいなくて心配になったらしいッス」

「ああっ、そうだよね。ごめん、さくらちゃん!」

ツナは駆け寄ると両手を伸ばし獄寺からさくらを自身の方へと抱き寄せた。

さくらの頬に残る涙の後を優しく拭って不安げなその顔を覗き込む。
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