☆ Little Honey ☆
□LH07
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その夜ツナの懸念が当たり、深夜にさくらは熱を出した。
夢うつつに苦しむさくらに水を飲ませ汗を拭い少しでも楽になればと背を撫でる。
そうして迎えた夜明けと共にツナは獄寺を呼び起こした。
「獄寺くん、お兄さんとシャマルから何か連絡は入った?」
「いえ、まだ何も」
直ぐさま状況を理解した獄寺はさすがはツナの右手よろしく迅速に行動を起こす。
「そう、ディーノさんには?」
「先ほど跳ね馬に事の次第を伝えました。ロマーリオがすぐに十年前のさくらのデータを送ってくれるそうですので後はジャンニー二に任せました」
「ありがとう」
ツナは礼を言ってから小さく息をつく。
アジトに備え付けてある大人さくらの薬を使う事は躊躇われた。
毛布にくるんで腕の中に抱えているのはまだ幼い少女。
強すぎる薬は毒にしかならない。
ツナは荒い呼吸を繰り返すさくらの頭を優しく撫でた。
思ったよりも熱が高い、益々上がって来ているようだ。
「さくらちゃん」
意識が朦朧としているのか呼びかけても返事は無く、苦しげに喘いだまま止まらない涙をツナは拭いながらその小さな背をさすり続けていた。
「このままじゃ…」
命の危険が伴うかもしれないとツナが感じた時、バタバタと走る足音が近づいて来た。
期待を込めてドアに視線を向ければ同じように獄寺もドアを見つめ、構えている。
バタンッ!
「沢田!極限に待たせた!」
ドアが壊れるんじゃないかと思うくらいの勢いで駆け込んで来たのは了平だった。
やはり戻って来るのに手こずったのか服に汚れが目立つ。
「おいおい、俺はもう若くねぇんだから無理させんなって」
ぶつくさ言いながら了平の後ろによれよれの白衣をまとった男が続く。
彼はくたびれたように肩を落としながら重そうな黒い鞄を下ろした。
その人こそ待ちわびた人物だった。
「「シャマル!」」
獄寺とツナ、二人の歓喜の声が重なる。
シャマルは二人の顔を見てニヤリと笑った後、ツナの腕の中にいるさくらに視線を止めて真顔に戻った。
「嬢ちゃん…か?」
「ああ…10年前のさくらちゃんだ。薬が無い、頼む」
「………」
シャマルは傍に近づいて懐かしむように目を細めた後、さくらの額に手を当ててからその手を首元に移し、探る様に指を当てた。
そして手首を掴むと脈を測る。
「隼人、お前は手伝え。笹川、医務室からここに書いた物を持って来い」
サラサラと走り書きのメモを了平に渡す。
戻って来たばかりだと言うのに了平は任せろと頷いて取りに行った。
シャマルは持ってきた鞄を広げ、必要な物を取りだし広げて行く。
「沢田、嬢ちゃんの熱を計れ」
「あ、ああ」
体温計を受け取ったツナは柔らかな髪をかきあげてさくらの耳に体温計を当てる。
その間にシャマルは聴診器をさくらの胸に当てると眉間にしわを寄せ険しい表情を更に深めた。
ピピッ
音が鳴って取りだした体温計の温度は39℃を超えていた。
「シャマル…」
「まず、応急処置だが嬢ちゃんの呼吸を楽にして熱を抑える薬を打つ」
ツナの呼びかけにシャマルは早口で捲し立てると手袋を付けて鞄の中からいくつかのアンプル(薬瓶)を出し注射器で適量を取り出し小瓶に混ぜていった。
そしてまるで銃の様な形をした注射器にそれをセットする。
「沢田、嬢ちゃんの体をしっかり抱えてろよ。隼人、お前は嬢ちゃんの腕を抑えておけ」
さくらの片手を取って袖を肩まで捲りあげ、細い腕を獄寺が両手で動かぬように掴む。
シャマルは消毒薬を肩に塗ると注射器の先を当てた。
「こいつは一瞬で薬を打ちこめるがちぃっとばかり痛みがある。嬢ちゃんに無理させるが」
「頼む」
ツナはさくらの頭を自分の肩に寄せるように支えてシャマルに頷いた。
一刻を争う今、手段を選んでなどいられない。