★ Diamond Honey ★

□Diamond Honey8
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屋上の扉を開くともわっとした熱気が肌にまとわりつく。

日が落ちたと言っても気温は全然下がらず、一気に汗が噴き出してきた。

夏真っ盛りの藍色の夜空は雲ひとつなく広がっていた。

「あっちぃ」

獄寺くんが着ていた半袖のシャツを脱いでタンクトップ姿になる。

それくらい外の空気はムシムシして暑かった。

「さくらちゃん大丈夫?」

「うん、カーディガンいらなかったね?」

「はは、そうだな。俺が持っててやるよ」

夏とは言っても夜は冷えるかもと思って持ってきたがこの暑さだと出番はなさそうだ。

自分で持つと言っていたさくらちゃんだけどあっさり山本に断られていた。

山本は兄らしくさくらちゃんのカーディガンを受け取る。

病院の屋上は殺風景ながらもところどころにベンチや植物が置いてありくつろげる空間になっていた。

俺たちの他にも何人か患者さんが出て来ていて今か今かと花火が始まるのを待っていて少し騒がしい。

今日は花火大会だという事で病院側も時間外の面会を許可している。

多くの患者さんは病室から空を眺めているだろうが動ける人は中庭にでたり屋上に来たりしていた。

俺たちも出来るだけ良く見える場所をと思って屋上へ来たパターンだ。

フェンス越しに街を見下ろせば下から強い風が吹きあがってくる。

それはほんの少しだけ涼を感じさせてくれた。

気持ちいいねとしばらくみんなでフェンスに張り付いていたが

あまり風に当たり続けるのもさくらちゃんの体に良くないからと移動する。

腕時計を見れば開始まであと十五分。

母さんたちも家から見るって言ってたっけ

そろそろ準備して縁側に座っている頃かな。

ランボとか騒いでないといいけど。

牛柄の服を着たチビっこが走り回る姿は容易に想像できて苦笑する。

「どうしたんですか十代目?」

「ううん、なんでもない。そろそろ場所決めようか」

適当な場所に腰を落ち着けて空が光るのを待った。

持ってきたジュースをそれぞれに配り準備は万端。

他愛無い話をして時間を潰していると

キュッと小さな手が隣に座る山本の服を掴んだ。

「…あついね」

「さくら…部屋戻るか?」

さくらちゃんの病室からでも花火は見えない事はない。

案にそこから見ようかと山本が促すがさくらちゃんは首を振る。

「ううん。ここで見る」

「そうか、しんどかったら言えよ?」

「うん」

山本が持ってきた団扇でパタパタと仰いであげる。

ぬるい風が思い出したように吹くけれど一向に暑さは拭えなかった。

健康体の俺たちでさえ暑さにうなだれてしまうのだからさくらちゃんにとってはもっと消耗しているのだろう。

山本がさくらちゃんの肩を抱いて引き寄せると彼女は促されるままに体を預けた。

寄りかかって空を見上げる姿につられ俺も空を仰ぐ。

早く花火が始まればいい、そう思った。
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