パラレルNovel

□ちっちゃな君をとりまく僕ら
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【ただいま】



「ただいまー」

可愛らしい声が響くと鷹士は夕飯を作る手を止めて玄関へと向かった。

玄関の扉を開けて小さな妹、ヒトミがニコニコと微笑んでいる。

「おかえりヒトミ」

鷹士が膝をついて両手を広げるとヒトミは躊躇いなく飛び込んでくる。

小さな体を鷹士は包み込むように抱きしめた。

その後ろから下の弟・雅紀も姿を現す。

「ただいま」

「おかえり、ヒトミのお迎えありがとな」

ランドセルを背負った下の弟は片手にヒトミの手提げカバンを下げている。

ヒトミを抱き上げると鷹士は雅紀の頭をポンポンとなでた。

邪魔くさそうにその手を払うと雅紀は報告とばかりに口を開いた。

「…さっきあの人に会ったよ」

「あの人?」

ヒトミの斜めに下げた幼稚園バックを外してやりながら鷹士は首を傾げた。

雅紀の口ぶりからあまり好感のある相手ではないようだ。

「したでね、りゅーちゃにあったのー」

「先生に会ったのか!?」

ヒトミと雅紀が出会ったという“りゅーちゃ”とは同じマンションの住人・若月龍太郎のことだろう。

鷹士の言葉にうなずいてヒトミは喜々と続ける。

「でねでね!りゅーちゃヒトミをぎゅーしてくれたの!ぎゅーって」

弾けんばかりの笑顔のヒトミと反対に鷹士の顔は青ざめていく。

ぎゅーって…まさか、だっ抱きしめられたのか!

この可愛いヒトミにあのボンクラ先生が触れたのか!!

「なっなに?本当か雅紀!」

「あーうん、止める暇なくて。一応蹴りは入れといたけど」

「良くやった、まったく油断も隙もあったもんじゃないな」

憤りながらもヒトミを更にギュッと抱きしめる。

それをヒトミは楽しそうに声を上げて喜んでいた。

「…何を玄関でたむろってる」

「「わぁっ」」

突然の不機嫌そうな声に鷹士と雅紀は驚いた。

恐る恐る声のした方を振り向けば桜川家次男・蓮が扉に手をかけていた。

ちょうど帰ってきたところらしい。

「れんにーおかえりー」

ヒトミはパァァと顔を輝かせると鷹士の腕から降り、駆け寄って蓮の足もとに飛びついた。

それを一瞥しただけで無造作にヒトミの頭を撫でる蓮。

視線は雅紀と鷹士にそそがれた。

「早く入れば?」

「あ、うん」

「悪い」

雅紀が靴を脱ぎ棄てて家に上がり鷹士が道を開けると蓮はさりげなくヒトミを引きはがし靴を脱いで自分の部屋へと入っていった。

その扉が閉まると雅紀と鷹士は顔を見合わせる。

「蓮兄こわいよ」

「あいつもなぁ…ん?どうしたヒトミ」

「たかにーおやつはぁ?」

鷹士のシャツをぐいぐいとひっぱってヒトミが訴える。

「もちろんあるぞ?でももうすぐ夕飯だから少しだけな?」

「やったー!」

「鷹兄、オレにはぁ?」

「ちゃんとあるぞ、ホラ二人とも手を洗ってこい」

「はーい、ヒトミ行くよ」

「はぁい!まーくんいこー」

雅紀とヒトミは仲良く手をつないで洗面所へと向かった。
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