めいん
□夏1
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夏の話(一)
四方八方から蝉の声が超音波のように聴こえ、
湿気やら熱やらが丹念に織り混ぜられた風が肌にじっとりと纏わりつく季節。
もう少し短ければ素直に喜べそうな通学の道のりやら、
町中の隅やらに繁る植物の緑は太陽の光を反射して輝くのに対し、
人々はあえて日陰を好み、日光を避ける珍しい時期でもある。
まぁ、植物みたいに直射日光を好んで浴び続けるような奴がいたら、
俺はそいつの神経を真剣かつ冷静に疑うが。
とにもかくにも色んな意味で毎日が暑苦しく、
共学の高校に入って良かったとつくづく思う。
…男子校なんぞに入学していたら、
俺は今ごろむさ苦しさという名の熱気に押し潰されていただろう。
―――それはそうと正直言って俺はこの季節が非常に好きではない、
要は嫌いなのだが……お分かりの通り、高校生になって初の夏が到来していた。
* * *
「歩、今日の夜空いてたりする?」
放課後、バス停までの長い長い道の途中。
自前の団扇でYシャツの隙間に風を滑り込ませていた俺に、
隣を歩く友人―――畑仲柳哉はなんの前触れもなく問いを投げ掛けてきた。
…今まで俺等、昨日のテレビ番組の話をしていたんじゃなかったか。
あまりの前触れのなさに虚を突かれたが、気を取り直して頭の中の予定表を捲る。
明日から夏休み、ということは予習しなければいけない教科もない。
「え、あー。今日はたぶん、空いてるな」
「なら、オレの家の近くにある鎖羅梛神社の場所、わかる?」
さらなぎじんじゃ。
………。
…鎖羅梛神社か。
すぐに漢字へ変換するには、俺の大変よろしくない頭にとって少々難しすぎた。
記憶の中にその名前がなかったら絶対に漢字を当てはめることなどできなかっただろう。
*