めいん

□夏1
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自宅の割と近くにあり、自転車をこいで20分かそこらにある中規模な神社。
畑仲家に向かう途中によくその前を通るのだが境内に入ったことはなく、
神社の前に立つ大きな石板に刻まれた難解な名を度々目にする程度だった。


それに加え神社の名前を聞いたのも今回が初めてで、
今まで鎖羅梛の読み方すら知らなかったくらいだ。


「あぁ、場所は知ってる」


だが知らなかったということを口に出すのも何だか気恥ずかしく、頷くだけに留める。


それに「場所は」と言ったのだから嘘はついていない。


「よかった。じゃあ今夜7時に鎖羅梛神社まで来てくれる?
本当はもっと遅くにしたかったんだけど、
藤本の家からだと神社までちょっと遠いらしいから」


深緑の田園を背景に透かしながら、柳哉は涼しげに
「あんまり遅いと親御さんが心配するだろうし」と続けた。


生ぬるい風が俺たちの間を攫いながら吹き抜けていく。
それに合わせて、だらしなく緩めた俺の黒いネクタイと
柳哉が首に掛けているイヤホンの細いコードが空気に踊った。


「藤本も来るのか。ってことは璃津も?」


風に背中を押されながら隣に訊ねる。


夜の神社に集まって何をするのかという質問をするべきだったのだが、
他の二人も来るのかという驚きの方が先に口から出た。


「来るよ。藤本は璃津が誘ったんだけど、意外だった?」


「ああ。藤本って、あんまり夜とか外に出なさそうだから」


柳哉は頷いてから俺の問いに答え、今度は俺が答えを返す。

藤本―――藤本春乃とは最近になって柳哉の姉である璃津を経由して知り合ったのだが、
おとなしめな印象が強く脳裏に焼き付いていた。

その為か、璃津はともかくとして大人しそうな藤本までもが、
夜の神社へ集まるという誘いにのったということが少し意外だったのだ。





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