めいん

□ひととせ1
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少年は、静かに私に訊ねました。

―――君はどこから来たの?

私はその問いに答えられませんでした。
なぜなら、どこから来たのかがわからなかったからです。
わからないことが答えられるほど、私は嘘吐きでも天才でもありませんでした。

少年は私から眼をそらすことなく、その瞳を細めました。

笑っているのか泣いているのか、
曖昧な境界に位置するその表情は、
なんとも形容しがたい想いを秘めているようでした。

ですが、自分の事でさえ何一つわからない私は、
少年の想いを知ることはできませんでした。

―――君の名前はなんて言うの?

私の名前は・・・・

やはり思い出せませんでした。
どうして思い出せないのか。
なぜ忘れてしまったのか。
それすらも私には意味のないことだったのかもしれません。

意味のないことを知っても仕方がない、
そう私は思ったから忘れてしまったのかもしれません。

では、知らなければならないこととは一体何なのか。

私は何を知るべきなのか。

そう少年に訊ねると、

―――それを知るために、君はここにいるのではないの?

・・・わかりません。
何もかも私にはわからなかったのです。

―――じゃあ、知らなくていいの?

わからないことが苦痛ならば、知ることもまた、苦痛なのかもしれません。

ですが、私は知らなければならない。
そんな気がしました。

私が一体何者なのか、
この少年は一体誰なのか。

少年は私に微笑み、ゆっくりと私に手を差し伸べました。

―――知らなくてはいけないのなら、探しに行かなければいけないね。

桜の花が舞う中、私は少年の手を取り、
一つのことを知りました。



私と少年の、長い長い物語が始まったのだということを―――



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