めいん

□hutago
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※畑仲家双子の大晦日。


〜やり残したこと〜



「ねぇ、柳哉。なんだか私、やり残したことがあるような気がするのだけど」


畑仲家にこたつは無い。
柳哉の双子の姉である璃津は、リビングに敷かれたカーペットに寝そべりながら
彼女の後ろで番組表をめくる弟へと問いかけた。
璃津の少し前には今年買い換えたばかりの大型液晶テレビ。
画面には最近有名になったばかりの若手歌手が映っている。


柳哉はテレビの画面には目もくれず、番組表の文字を追いつつ姉の言葉を心の中で反芻した。


やり残したこと。


なにか、去年も璃津は同じことを言っていた気がする。
彼は番組表のページをめくり「それ、去年も言ってたよ。大晦日に」と思ったことをそのまま口にした。
すると璃津はテレビ画面を眺めながら、


「そうだったかしら?」
「そうだったよ」


相も変わらず文字を追い続ける柳哉はそっけなくそう返す。
その返答を聞いた璃津はくるりと振り返り、カーペットに座る弟が読む番組表の上側をぐっと引っ張った。
番組表は大きく傾き、璃津に似ていないようで似ている柳哉の顔が覗く。

「柳哉にはないの?やり残したこと」

柳哉は番組表が見えなくなったことに一瞬驚いたものの、すぐに平静を取り戻し、ぱたんと手元の番組表を閉じた。
どうやら璃津の質問からは逃れられないということを悟ったようで。

今は両親もリビングにはいない。
テレビも特に興味を引くようなものは無い。
だから璃津はこうも柳哉にちょっかいを出してくるのだ。
けれど柳哉のほうもその状況に慣れているようで、嫌な顔一つせず璃津の質問の答えを「んー」と考え始める。

璃津のほうは顎に手で支えを作りながら、柳哉の答えを待つ。
このやり取りは今年初めてで、大晦日にする雑談にしては割と落ち着いた内容。
だからこそ璃津はどんな答えが柳哉の口から出るのか楽しみにしているのだ。


「やり残したこと、やり残したこと……んー、あえて言うなら、」
「うんうん」


「食べようと思っていたプリンを買い忘れた」


柳哉は今思い出したかのように、眉間にしわを寄せ残念そうに言った。
その様子を見た璃津はほんの少しの間固まったのだが、すぐにぷっと空気を吹き出し
声をあげて大笑いし始める。それこそテレビの音が聞こえなくなるほどに。

「なにそれーっ。プリンって、プリンってちょっとねぇっ」

「ちょっと、ひどい。やり残したことってそれくらいしかないんだから仕方ないでしょ」


柳哉は番組表を丸め、すぱんと璃津の頭をはたく。
それでも璃津は笑いを止めず、ごめんごめんと言いつつもプリンという単語を連呼。
柳哉は言うんじゃなかったとひとりごちて、それでも怒っているふうはなく再び番組表を開いた。

だが、璃津はそれでも引きさがることはなくひとしきり笑った後に、また弟の番組表を引っ張る。

「今度は何?」と弟。

文字を追っているために、やや淡白だ。

「柳哉、やり残したこと見つかった」と姉。


そして璃津は柳哉の返事を待つことなくすっくと立ち、今度は彼の腕をつかんだ。
彼女の弟はきょとんと姉を見上げ、次に来るであろう言葉を待つ。
なんとなくこうなることを解っていた柳哉だが、あえて待った。
そうすることが一番安全であると、彼は一番よく知っているからだ。


「コンビニ行こう。そういえば今年最後のコンビニ収め、まだ行ってなかったから」


コンビニ収めってなんだ。コンビニ収めって。
そう突っ込みたいのをなんとかおさめ、柳哉はなんとなく璃津の言いたいことが分かってしまった。
強引ながらも心やさしい姉。やはり怒ったり嫌いになったりはできないのだ。

「はいはい」

柳哉は込みあげてくる笑みを番組表で隠し、璃津に腕を引かれて立ったころにはいつもの表情を戻していた。
本当に、解りやすい姉だなぁと彼は内心思いつつ。


「そうと決まれば、日付が変わる前に出発よ」


璃津はにこりと笑う。
その笑顔に柳哉もつられて笑う。




――来年も、こんな風に居られることを願って。




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