Tales of Colloseum

□2,戦の前のはらごしらえ
1ページ/1ページ


     戦の前のはらごしらえ


「ユ…ユーリなら…きっと大丈夫だよね……
相手もすごく強そうだけど………」


「心配するなって、カロル先生。俺にはこいつもあるんだぜ。」

ユーリはカロルに金色に光る魔導器を見せた。


「あ!それって、さっき大会の人からもらったやつでしょ。でもそれって大丈夫なの?」


「分かんねえけど、無いよりはマシだろ。」


「それって、全然信用ないんじゃ………」


「大丈夫だって言ってるだろ。あっ、俺用事思い出したからカロルは先に部屋に戻ってくれ。」

そう言うとユーリはカロルに背を向けて歩きだした。


「ちょっとどこいくのさ!!」


「ただの散歩だよ。」


「試合前には帰ってきてよね。」


ユーリは返事の代わりにカロルに向かって軽く手を挙げ、そのままその場を後にした。




「さて、どうしたものか。」

ユーリは考えながら廊下を歩いていく。
この大会に招待されたのは星喰みを倒して数週間後のことだった………。
俺達の前に大会の係を名乗る奴がやってきて、この大会の説明をした。俺はあまり行く気ではなかったが、仲間に押されあっさり承諾し現在に至っている。
そして、渡されたのがこの魔導器だった。
ユーリは腕にはめられた魔導器もう一度見た。
大会の奴は俺達の世界のものを真似て作ったと言っていた。確かに姿形も使っていたものとそっくりで、技もある程度使えるのも確認した。
しかし、これが俺の全てを引き出せるのかどうかは実際にやってみないと分らない。
もし、自分の実力を引き出せなければ最初の戦いを見た限りでは、俺が勝つのはかなり厳しいだろう。


「とりあえずどこかでこいつを試さないとな………ん?」


廊下を歩いていると、ヒュンヒュンと風を切る音が耳に入った。音が聞こえた方にいってみると、一人の青年が剣を振っているのが目にとまった。
青年が剣を振っている場所はドアがなく、吹き抜けのようになっている場所で、小さな広場位の大きさだった。


「あんた、そこで何やってんだ?」

ユーリは赤い髪の青年に声をかけた。

「何って、少し体を動かしていたんだよ。あいつらの戦い見てたら、俺もこうしちゃいれないって思ってな。」

青年は剣を振るの止めた。

「ところでさ、ちょっと一戦交えたいんだけどいいか? 一人じゃあ、どうもしっくりこなくてな。」


「!!」ユーリは一瞬眉をひそめた。


「俺なんかでいいのか。」


「ああ構わねえ。それよりどうする? 一緒にやってくれるか?」

青年はユーリを真っすぐ見て言った。


「ふっ、おもしれぇ…その勝負受けてやるぜ!!」

ユーリは鞘を後ろに吹き飛ばし、剣を抜きさった。


「あ、ちょっと待ってくれ。」

そういうと青年は近くにあった袋からパンを取り出し、それをユーリの目の前でムシャムシャと食べだした。


「………何やってんだ。」


「ん?見ての通りパン食ってんだよ。体動かしてたら腹減っちまってよ…お前もいるか?」


「いらねーよ…っつーか今から食って大丈夫なのか?」


「ああ…へーき。へーき。」

オイオイとユーリが心の中で、つっこみを入れているうちに青年の手にあったパンがみるみるうちに小さくなっていた………。

「もぐもぐ……よし、食い終わったぞ! ん?どうした?そんな顔して。」

青年は口についたパンの残りカスを手でぬぐいながら言った。


「いや、剣を抜いた奴の目の前でよくパンが食えるなぁと思って…」


「まぁな。」

青年はユーリに笑顔を見せて言った。

「あんた面白いな。気に入った。名前はなんていうんだ。」


「俺はリッド。リッド・ハーシェルだ。あんたは?」


「俺はユーリ・ローウェルだ。それよりパンはまだ余ってるか?」


「おっ、お前もパン食べたいのか。ほらよ。」

リッドは袋の中からパンを一つ取り出し、それをユーリに軽く放り投げた。
ユーリはそれをつかんで、素早く口に入れる。リッドほど早くはないが、半ば押し込むような形で数十秒ほどで完食した。


「食べるならもっと、早く言ってくれればよかったのに……。」


「別に俺は好き好んで食べたわけじゃねぇよ、後で負けた時の言い訳が聞きたくないだけだ。」


「ほう、それはどうも。」


目の前の青年はいつの間にか剣を手にし、その瞳はパンを食っていたときのものとはまるで違った。


「…あんた…強いな…」


「さあ、それはどうだかな。」


そして、そこから数秒の沈黙が流れ、周りの空気が静かな熱気に包まれはじめる。
そこにある光景はまさしく、森で狩人と狼が向かいあった姿だった。
互いにじっと見つめあう。


「じゃあ、始めようか。」


ギンッ!!
二人の剣が交わり沈黙が破れた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ