Tales of Colloseum

□3.Readiness
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Readiness



「闘技場って思ってたより広いんだな〜。」

赤服の少年ロイドは呟くように言った。

観客席から見ても大きいと分かっていたが、この場に立ってその大きさを改めて実感することができる。
観客の声援や熱気……そして闘技場特有の高揚感それらは自分の知っていたメルトキオの闘技場よりも何倍も大きく激しいものであった。

ロイドは自分の腰に挿してある二対の剣に目をやる。

この剣を大会の人に渡されたときロイドは本当に驚いた。その剣はここに存在するはずのない親父と父さんの二人の剣だったからだ。
大会の人はこれを精巧なレプリカだと言っていたが、実際に使ったことのある自分でもその違いが分らなかった。
剣の重さ、長さ、手で握った時の感触……その全てが本物で握れば、この剣を使っていた時のことを思い出す。
使った期間は非常に短かったが、そのどちらもがまるで自分のために存在しているかの如く、共鳴しミトスを打ち負かす力となってロイドを助けた。


「大丈夫だ。この剣があれば、どんな奴が相手でも負けるわけがない。」

そう、ロイドは剣に向かって言った。





目の前の相手が徐々に見えてきた。
身長は自分と同じくらいで上半身には銀色の鎧を纏っており、右手には丈夫そうな盾そして、額に赤いバンダナを巻いていた。
互いの距離が五メートル位になって、バンダナの剣士がゆっくり剣を抜いた。
!? その剣を見てロイドは言葉を失う。
ありえない……いやありえる。自分の剣もあったのだからこの剣だって……
いやでもそんなことがありえるのか……
この剣が本当に存在するのか………


「君の二つの剣…ヴォーパルソードとフランベルジュだよね。」

「!?な………なんでこの剣のことを知っている!!」

ロイドは相手の思わぬ言動にこう答えることしかできなかった。

「なんでって、それは使ったことがあるから……。」

「違う!! だから、なんで使ったことがあるんだ!! そして、なんでお前はその剣を………エターナルソードを持っているんだ!!」


見間違うはずもない……鈍い色で映える紫の大剣………。
ミトスが所持し、旅の最期にロイドが使用し世界を救った 時空を操る剣(エターナルソード)………真の使い手ならば未来や過去をも変えうる絶大な力…………
古代(いにしえ)の人がどのように作り、どのように行使してきたのかはわからない。でも…………


「君がその剣を持とうと僕がこの剣を持とうとそんなことは関係ない!! 僕はこの大会で優勝しなければいけないのだから。」

目の前の少年が剣を構え戦闘態勢に入る。
くっ、こいつエターナルソードの使い手か、異世界からの参加者とか言ってたが……この剣が本当に異世界に存在するのかよ………
なんでだ…なんで存在する……わかんねぇ……さっぱりわからねぇよ………

「どういう理由でその剣を持っているのか知らねぇが、俺だって負けられないんだよ!!」

数奇な運命の悪戯といえばよいのだろうか……奇しくもオリジンに選ばれた同じ時空剣士……世界も同じ……勝負を制するのは剣の質だけではない…………
闘いとは魂のぶつけ合いつまり思いのぶつけ合いの他ならない………
勝利の女神が微笑むのは紅と蒼の剣を持つ二天一流の時空剣士か、紫に輝く大剣を持つ時空剣士か……己のすべてを剣にこめ闘いが始まる。





「くそっ、なんでだ……なんでなんだ。」
 
円く閉じられた一種の檻のような空間で、目の前の赤いバンダナの少年と対峙し剣を交わらせている。
まだ、数合しか打ち合わせていないが相手の実力は自分と五分か或いはそれ以上であることはロイドも容易に理解することができた。
しかし、目の前に立つ青年と自分には剣の腕ではそんなに差はないはずなのに、なぜか目の前の少年がひどく遠く感じてしまう。
手を伸ばしても届かない………触れようとしても触れられない……裏を描いて攻めようと、フェイントを入れようと結果は同じであった。
あくまで、打ち合わせたのが数合なだけでこちらが出した剣撃はすでに三十合超えていた。

畜生!!何が……何がおれに足りないんだ。

相手がエターナルソードを持っているからか? 違う、相手が丈夫そうな盾を持っているからか? それも違う。

じゃあ、なんだ……なんだっていうんだ。
この何とも言えない得体のしれない感覚は?


「とりあえずこのままじゃ埒があかない…ここは一気に攻める!!」

ロイドは再び間合いを詰め、クレスに斬りかかる。
クレスはこれを見切り、バックステップで避ける。

「ここだ! 裂空斬!!」

クレスのバックステップを読んでロイドは、空中でかまいたち状に回転しながら間合いを詰める。

「綜雨衝!!」

裂空斬から地上に着地しそこから間髪なく無数の突きを繰り出す。
カカカカカと鈍い金属音出しながら盾を突くが、まだ防御を崩すには至っていない。

「まだだ、烈風空牙衝!!」

突きの後にすぐに飛び上がりそこから裂空斬
を繰り出す。

「!?」

ロイドは目を疑った。ガードをしているはずのクレスが
体半歩分踏み込んでそこから右手の盾をこちらに突き出していた。


「なにを考えてるのか知らないがその腕もらった!!!」

ロイドの剣がクレスの腕に届くか否かのところで、ロイドは後ろに弾き飛ばされた。



「かはぁ!」



口の中に鉄の味がする………。内臓をやられたのか息が苦しい。
なんだ、何をやられたんだ……俺が攻撃をして相手に届きそうなところで……ロイドは空中に飛ばされながらクレスの方を見た。
クレスの盾からは獅子の闘気の残影が出ていた。
うそだろ……あいつ俺の裂空斬のなか、獅子戦吼を打ったのか………
しかも、たった一回で俺の攻撃を見切ったっていうのかよ。

「ぐはぁ!!」

ロイドは背中から地面に打ちつけられた。
空中で無意識のうちに受け身をを取っていたのか頭から地面に打ちつけられずに済んだようだ。

「くっ、痛えっ!!」

ロイドは胸を押さえてよろよろと立ち上がろうとする。

「!?」

立ち上がろうとした矢先目の前におそらくクレスが放ったであろう斬撃がこちらに向かっていた。


「くっ、!!」痛みをこらえて横に転がる。転がった際打ちつけられた胸がひどく痛んだ。


ふぅ、何とか凌いだか……よし、ロイドは全身に力を入れる。


「まだだ。まだ俺は…………!?」




全身に寒気に似た悪寒が走る。
あの斬撃の飛んできた方向からしてクレスは自分の逆方向に立っていたはずだ。
なのに自分が振り返って相手に向かって剣を構えたはずなのに……
なぜ…なぜそこにクレスの姿がない!?
消えた……どこに……
この闘技場に隠れれるところなんかない。
となると自分の死角……!?
まずい、ロイドはとっさに二つの剣を交差させた。


「ガキィン!!」


交差させた剣に何かが当たった……剣?いや、むしろ炎の塊と呼んだほうがいいかもしれない。
金属音がなることからして剣のはずなのだが、ガードしているにも関わらず腕が焼けるように熱くなる。


「うおおおおおおお!!!!」


ロイドはその炎の塊を力で押し返した。
押し返された炎の塊は地面に突き刺さるとそのまま跡形もなく消えて剣は主のもとへと帰還した。

「そいつもエターナルソードの力なのか?」

地面に滑るように着地したクレスは何も答えず、ロイドに向かってその剣を無機質に突き付ける。



「答えろ!!!」




怒りにまかせて一気に間合いに入りクレスに斬りかかる。
なんで、くそぉ……どうして………
こちらの剣は虚空を斬るばかり……
俺に何が足りないっていうんだ。
俺に何が……

疲れにより時間軸が少しずつずれてゆく………

ていうか俺なんで怒ってるんだ………
なんだ身体が焼けるように熱い………
身体がどんどん重たくなっていく………

それでもロイドは動くことをやめない………

頭がぼーとする目の前の風景がぶれる………
なんでお前は平気そうなんだ………なんで冷たい目で俺を見るんだ………
俺が弱いからか………それとも………

足りない………力が……
待て…本当に足りていないのか…………
違う……なんなんだ……!?
ふとロイドは気づく
俺の今の剣は…………


「君の剣は今、死んでいるよ。」



ザシュ、




闘技場の歓声で聞き取りずらかったが、確かに聞こえた。
それは自分が出した音だから……
それは自分が斬られた音だから…………
再び人の生血がこのコロシアムに注がれた。





くらっちまったか………ファストヒットがこんな手痛いものになっちまうとは………
ドックン、ドックン、心臓の拍動が傷口を通して全身に伝わっていく………

俺って、こんなに弱かったか? 
いや、弱くない。弱いはずがない。
だって、俺は…俺はあの父さんに勝ったんだから……。
俺、カッコ悪いな……なんでこんなとこで苦戦してるんだよ…………
優勝するんじゃなかったのか…………
こんなところで倒れていいはずがないだろ……
そんなじゃ父さんに会わす顔がないだろ………
倒れるわけにはいか…………ねぇ。


ロイドは斬られながらも何とか踏みとどまった。
エクスフィアの効果で身体能力が上がっていなければ
今の一撃で確実にやられていただろう。

とはいえ、この一撃はロイドにとっては重い一撃となった。左の肩口から右の足の付け根の辺りまで斜めに大きな裂傷ができて、そこからどくどくと血が流れるのを感じる。

身体能力が上がったといっても痛みがなくなるわけではなく、
普通の人と同じように血が流れる。
血が流れ過ぎれば出血多量で生死の危機すらある。
しかし、本人は出血多量やらどうやら言っている場合ではなかった。


「まだだ、まだ………おわってねぇ。」

ロイドは傷口を押さえながらクレスを睨みつける。

「こんなところで……こんなところで負けられねぇんだよ………俺は……俺は……。」

クレスはロイドの方をちらりと一瞥すると
自分の手に持っている剣を鞘するりとしまった。

「待て……なぜ剣をしまう。」

「勝負はもう着いた……君を斬るつもりはない。早く降参してくれ。」

「待て、何が勝負は着いただ!!俺はまだ…………くぅ。」

叫んだ反応で身体が悲鳴を上げる。


「仮にもし君が動けたとしても僕に勝つことはできない。
今の君はただ棒きれを振り回している子供にすぎない。」


「何が言いたい!!」


「今の君には戦士として、剣士として最も大事なものが欠けている。
それは”覚悟”だ。
何が何でも勝つ…そういった感情や思いの類が君の剣からは全く感じられない。
だから、君の剣は全く怖くない。
そもそも、君はなぜこの大会に出ようと思った?」


「そ……それは。」

「どうせ、中途半端な気持ちで俺なら勝てると高をくくっていたのだろ……そんなくだらない考え反吐がでる……恥を知れ!!!」

!?………こいつの言う通りだ……俺は……

ロイドの頭の中の時間が急速に巻き戻る。


俺は………俺は………


うっ、ロイドは頭を抱える。そうだ、こいつの言う通りだ。
俺は………俺は………なんて軽い気持ちで戦っていたんだ。
楽な戦いじゃないってことは初戦を見て分かっていただろう。
それなのになんで…………なんで……なんで……なんで……
ロイドの頬に一筋の水滴が流れ落ちる。


「くっそおおおおおおおおお!!!!」



ロイドは目の前の相手を気にせず、空に向かって叫んだ。





そういえば、俺がここに来たのは………


ロイドはシルバラントにいたときのことを思い返す。
コレットと二人でエクスフィア探しに旅をしていた時だ。
その時に大会の人がやってきた。


「ロイド・アーヴィング様この大会への参加決定でよろしいでしょうか?」


「おおぅ、当り前よ。どんな敵が出てこようが、俺の剣に勝てるやつなんていねぇよ。
さくっと、優勝して願いごととやらを叶えてもらうとするか。
なっ、コレット。」


金髪の少女コレットは笑顔でうなずいた。


今にして思えば、甘かったのかもしれない。いや、甘すぎた。
この大会はメルトキオのやつをでっかくしたようなもだとロイドは考えていた。

そして、今になってようやくわかった気がする旅の中で幾度か考えたその答えが……………………………



俺が父さんやミトスみたいな強いやつ相手に勝てたのは………



あの時は必死すぎて、そして旅が終わって再び旅をしている時もわからなかった。


その答えが今ここにある。



「覚悟っか……確かに俺にはそんなものなかった………俺はこの大会を半分お遊びのつもりで来たんだから……
どうせ相手も大したことがないんだと思っていた……けれど現実は違った。
こんなところにも必死で勝とうとしているやつがいた。
こんなところで命を懸けて闘っている奴がいた。
そんな奴らに比べて俺は最悪だ。そんな気持ちで何が勝負だ。勝負になるわけがない。」


「最初の斬りあいのときだってそうだった………始めはなんで当たらないんだろうって思ってた。
けれど今なら分かる……俺があんたを恐れて半歩踏み込んでなかった。
ただ、それだけのことだった。」


「仮にそれに気づいたところでどうなる?
君の今のその傷では満足に体を動かすこともできないだろう。」


ロイドの足もとにはすでに血の水たまりができていた。


「あぁ、確かに体は痛ぇし、意識だって飛びそうだ……だがなこれが戦いなんだよ!!
痛くても辛くてもそれでも前にでて剣を振るう、それが剣士だろ。
だから俺は指の一本だって動かなくなるまで戦い続けてやる。それが………俺の戦士としての誇りなんだ!!!!!」


闘気に応じて、ロイドの背中から巨大な蒼い翼が現れた。
その姿は赤い衣を纏った天使のようであった。


「それが君の覚悟というわけか。」


「いくぜぇええええええ、クレス!!!!」


ロイドは地面を滑空するようなスピードでクレスに近づき、剣を振るう。その剣にもう迷いはなかった。


父さん……俺ようやくわかったよ………俺があの時父さんに勝てたのは…………
その答えを胸にしまい赤服の天使は剣を振るう。
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