ヘタリア

□郵便屋さん、ついでにこれも(独普?)
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ずっと屋外にいた彼の手の方が温かかった。意識のない青年の手を引き寄せ、キスをすると、郵便屋は帰っていく。

〜郵便屋さん、ついでにこれも〜

せっかくアメリカが買ってきたビールにも手を付けず、まして料理になど見向きもしない。
「どうしちゃったんだい?イギリスとフランスに、わざわざ好物聞いてきてやったのに。」
ドイツはただ、ソファに寝転がり、台所の方ばかり見つめていた。その目がふらふらと揺れ、アメリカが座っていない側のダイニングテーブルを見つめる。
「いや、だからもう食べたって……何度言ったらわかるんだ、兄さん……。」
「ドイツ?ドイツ、しっかりしろよ!そこには誰もいないんだぞ!」
異様な雰囲気に気付いたアメリカは、ドイツの肩を掴んで、がたがたと揺すった。ドイツが、はっと目を見開く。
「ア、アメリカ?お前、いつから……いつ来た?」
「大丈夫かい?……俺、もう10分ぐらい君が返事するの待って話しかけてたんだぞ。君が拗ねてるんだと思って……。」
頭が痛むのか、こめかみを指で押さえながら、ドイツは腑に落ちない顔をしていた。アメリカがさらに続ける。
「疑ってるのかい?ほんとだぞ、俺が、イギリスとフランスに、わざわざ好物聞いてきてやったのにって言ったら、急に、何度言ったらわかるんだ、兄さん、とか言ってさ。目の焦点もあってなかったから、本当に焦ったんだぞ!」
「それは、すまない。」
言いながらドイツが強く目を閉じたことに、アメリカはさらに動揺した。涙を堪えるような表情。何があっても気丈だった彼が泣きそうになったことなど……ある、兄を連れ去られたあの日。
「……何を見ていた…見えていたんだい?」
「兄貴だ。」
きつく目を閉じたまま、彼は素っ気なく言った。
「わざわざ来てくれたのに悪いが、帰ってくれ、アメリカ。」
いくら何でも冷たいぞと、反論しようとしたアメリカが声を失う。閉ざされた目蓋の間、睫毛が濡れ、ドイツが顔を反らしたのも間に合わず、目尻から涙が流れ落ちている……。
「帰ってくれ、アメリカ……。」
「俺より100年ぐらい年下なのに、意地っ張りだな、君は。」
長い指で、涙を掬う。払い除けようとする手を優しく掴んで止めた。
「あの日みたいに泣いたらどうだい?」
「泣く暇はない……っ、兄さんが、ロシアに……このままじゃ殺されるっ……。飢えて、寒くて……」
声の震えも涙も止まらない、それでも目だけは開けようとしない……泣き顔だけは見せようとしない姿に、アメリカは困ったように笑った。
「君は、意地張って強くなったんだったね……。」
額をそっと撫で、彼は立ち上がった。
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