novel

□第5章 <2>
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鸞が来たのは、その日の午後だった。
鸞は、発信人となる王の言を記憶して、直接言葉を運ぶ親書。故に王にしか扱えない。
尾羽の色からこの鸞の主は延で、陽子は待ちに待った返事だ。
急いてくる心を抑えながら、銀の粒を与えると、鳥は明朗な男の声で正午に禁門の上で待て、と言って嘴を閉じた。










禁門の門殿の前で待っていると、正午きっかりに、予告通り雲海上に騎獣に乗騎する大小二つの影が飛来してきた。
「まぁた、厄介事抱えてんだって?陽子」
騶虞から飛び降りるなり言った六太に、お久しぶりですと、陽子は笑みを浮かべて拱手する。
 「遠路より、唐突の御越し、痛み入ります。延王並びに延台輔」
陽子はいつかと同じやり取りに苦笑しながら、雁王尚隆と延麒六太を迎える。
 「わかることがあれば報せてくれと、慶から使いがあったと思ったが」
上 騎を降りた延が、片眉をあげながら、ゆっくりと言う。
 「また、延王自らご報告いただけるとは想像だにしていませんでした。お迎えする官はてんてこ舞いです」
そうは言ったものの、この二人の突然の訪問はしばしばあることなので、陽子も官も今ではすっかり慣れてしまった。
 「既視感を覚えるのは、俺の気のせいか。三十年ほど前にも同じようなことがあった気がしてならないのだが」
陽子は肩をすくめて、苦笑しながら、二人の賓客を禁門へと促す。
二人を王宮へと案内しながら、問われるままに事の経緯を話し、件の主従は今は和州城に保護しており、近々王宮に移ってもらうつもりだと言うこと等を説明した。
 「それにしても、陽子はホントよく厄介事に巻き込まれるよな」
 にやにやと笑いながら言う六太に、延麒と尚隆が嗜めるが彼に気にした様子はない。







  そのまま、軽い世間話をしながら行くと、内殿の入口に浩瀚が待っていた。その後ろには景麒と大師の姿もある。
  各々礼をとった彼らを伴って書房の一角にある積翠台へと向かった。
「そいつは芳麒なんじゃないかと思う」
腰を下ろした六太は開口一番そう言った。
「どういうことです!?」
陽子は思わず身を乗り出した。隣で景麒もやや目を見開いている。
 「麒麟は5、6年もすれば王を選べる。巧麒は二十年前位から既に王の選定に入っているが、芳は未だに麒麟旗が上がっていないんだ」
 六太によれば現在次王を選定する芳国の麒麟は蓬山にいないらしい。
 本来ならば、一年で孵るはずの巧果の孵化についてはいろいろ疑問の残るところだ。
 先の巧王崩御から九年もの歳月が過ぎていたが、何とか無事に生まれて恙無く成長した。今の巧麒は御歳二十六。
 芳の先王が崩御したのは巧王崩御の少し前だから、本来ならば芳麒は巧麒より先に王の選定に入っていていないとおかしい。
 これは何かあると思って蓬山を訪ねてみれば、巧麒の宮しか開かれていなかった、と六太は言う。
 「そんな」
 「さらに調べてみてわかった。今から約39年前―――つまり、陽子が即位する4年前に、恭から芳へと蝕が掛け抜けてる。しかも、その進路から考えて、その発生源は恐らく五山だ」
 六太の言葉を引き継いで、今度は尚隆口を開いた。
 「じゃあ、芳麒はその蝕で・・・・・・」
 「その可能性が高いな。実際、蓬山に問わせても巧麒については色よい返答があったが、芳麒については茶を濁された」
 「まぁ、蓬山は諸王不可侵の山だからな、一々起こった変異が報告されることはねぇんだけどな」
 六太が口をはさんだ。
 陽子も両国の麒麟について、問わなかったわけではない。
 麒麟の安否を気遣って蓬山に使者を立てたこともあったのだが、かわされてしまった。
 特に問題がなかったことと、国の復興とで手いっぱいだったこともあり、陽子もそれ以上は追及していなかった。
「・・・・・・・・・・・・・」
「いずれにしても、麒麟旗が上がっていない事と、巧麒だけが選定に入っている事から断言できる。今、次王を選定する芳国の麒麟は蓬山にいない」
「それで、延麒はその人物が芳麒と・・・」
「ああ。こんな目立つ髪は麒麟以外にいないしな」
「そうですか」
 陽子は口元に手をやって、少し考え込むようにする。
 ややあって、尚隆が口を開く。
「・・・まあ、そいつが本当に麒だったらの話だけどな」
 その隣で、六太が意味ありげに笑っていた。

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