ジャラジャラ。
耳を擽る鎖の音。
ガラガラ。
脳を揺さぶる崩壊図。
ハラハラ。
零れるのは想い――
言い出したのはヘッポコ丸だった。
「俺のこと、繋いでよ」
そう言って差し出してきたのは、子供用玩具なんかみたいな陳腐な物ではない、重々しく光る銀色の手錠。
「な、なに言ってんだ…?」
「愛してるから。繋いでほしいの。俺のこと、縛り付けてほしいの」
「けどっ…」
「俺が浮気しないように…ね?」
浮気をしない。
付き合う事を決めた時、最初に約束したこと。
まさか――こんな風に意思を啓示されるとは思わなかった。
「人の気持ちは永遠じゃない。いつか終わりが来る。その前に、俺をこれで縛り付けて。ずっと破天荒のことしか考えられないように…」
いつもと変わらない笑顔でヘッポコ丸はそう言った。俺が惚れた、眩しい笑顔。
結局、俺はその要求を受け入れた。部屋の中を行き来出来るぐらいに鎖を繋げに繋げて、片方をベッドの柱に、もう片方をヘッポコ丸の左足首に繋いだ。
以来、部屋の中にはヘッポコ丸が鎖を引き摺って歩く音が絶えなくなった。ジャラジャラと耳障りな金属音を鳴らして、ヘッポコ丸の足に繋がる鎖。引き摺って歩くせいだろう、ヘッポコ丸の足には痛々しい痣が出来ていた。
満足そうなヘッポコ丸とは対象的に、俺の気持ちは沈むばかり。
何があろうとも、何が起ころうとも、物事には必ず終わりが来る。それはヘッポコ丸も言ったこと。その終わりを拒絶し、ヘッポコ丸は『今』を繋ぎ止めた。己の身と共に。そして――俺の、心すらも。
普通とは異なるこの空間。今日も部屋には、『今』を繋ぐ鎖の音が響いている。
――――
アブが点くノーマルな部屋
シド/泣き出した女と虚無感