「好き。破天荒、好きだよ」
ヘッポコ丸は時折、突拍子に俺に「好き」と告げてくる。その言葉の奥に隠された真実を、俺は痛いほどに理解している。俺を見つめる瞳には、悲哀の色一色しか見当たらない。
自分の胸の位置にある銀髪を撫でる。傷みのないその髪は、指に絡むことなくサラサラと流れる。
「好き。破天荒、好きだよ」
「好きなだけ?」
「…愛してるよ、破天荒」
「あぁ、俺も愛してる」
呟いてから贈るキス。髪に。額に。瞼に。鼻に。頬に。唇に。
触れるだけの口付けに、込められるだけの愛情を込めて。
口付けの雨が降り終えて、自然と交叉するお互いの瞳。先程よりは悲哀の色は薄い。けど、完全に無くなった訳じゃない。悲哀の半分、不安に支配されつつある真紅の瞳が、ゆらりと揺れた。
「…終わり?」
聞こえるか細い声。不安一色の、問い掛け。
「まだ欲しいか?」
「欲しい。足りない」
「はん、上等」
ニヒルにはにかんでから、細い顎を固定して唇に荒々しく口付けた。先程とは違う口付けにヘッポコ丸は驚いた様子だったが、すぐに俺の舌を口内に受け入れた。
息をつかせる暇も与えない程に乱暴な口付け。苦しそうな吐息が聞こえるが、無視してその小さな唇を貪る。コイツの不安を全て吸いとるかの如く、深い口付け。あの日の悪夢を拭うかのように、必死に舌を絡ませてくるヘッポコ丸。
コイツをこんな風にしてしまったのは、俺だから。
どうしたらお前は、不安に支配されなくなるんだろうな…。
あの日の悪夢を、どうやったら消し去れるんだろうな…。
あの日から言葉を信じられなくなったヘッポコ丸。言葉の代わりに求めてきたのは、行動での示し。言葉ではなんとでも言える『愛』を、行動で与えてほしいと願ったヘッポコ丸。それに応えて、俺は日々、ヘッポコ丸に『愛』を感じさせてやっている。
それは抱擁であったり。髪を鋤く事であったり。キスであったり。SEXであったり。形はさまざまだ。
その中に、ヘッポコ丸が『愛』を感じ取ってくれているかは――分からないけれど。
けれど、俺は本当にヘッポコ丸を愛しているから、これらの行為を罪滅ぼしが目的で行なっている訳ではない。愛しているからこその―――自然な行動なわけで。
その全てを一度全て裏切ってしまったのは、俺だ。
「離れないでよ、破天荒…」
深い口付けを終えて、息も絶え絶えなヘッポコ丸が呟く。
「愛なんて、言葉に出すなんて簡単なんでしょ?」
「破天荒のこと信じたい…けど、信じられない…」
「だったら、信じさせてほしい…」
「言葉じゃなくて、行動で『愛』を教えてよ…」
「言葉は誰にあげたっていいから」
「破天荒は、俺を見ていてよ…」
零れた涙は、きっと俺の為のものだ。俺に対する愛の大きさの結晶だ。
一度裏切った俺の全てを信じられなくても、僅かでも信じようとしてくれているコイツの想いだ。
「大丈夫だから」
零れる涙を一筋掬い取って。
「言葉じゃ感じられないくらいに、『愛』をくれてやるから」
また、大きな『愛』を乗せた口付けを―――
――――
言葉よりも深く愛して
the GazettE/CALM ENVY