俺は玲汰が好き。



だけど、玲汰は戒くんが好き。



そして戒くんは―――俺が好き、らしい。






ずっと玲汰を見ていた。それこそthe GazettE結成の前から、ずっとずっと玲汰が好きだった。アイツの一番になりたい。アイツになら抱かれたっていい…そう思った回数は数知れず。…まぁ、アイツは俺の気持ちには全然気付いてないんだけどな。



その上――俺が欲しかった玲汰の心は、いつの間にか戒くんに向いていた。




悔しかった。俺の方が付き合いが長いのに、どうしてお前が玲汰に愛されているんだと。俺の方がその資格があるのにと。

見当違いな嫉妬なのは分かっていたけれど、戒くんのことが恨めしかったのは確かだった。





戒くんの想いに気付いたのは、それからあまり時間が経っていない時。





モヤモヤとした気持ちを抱え、仲良さそうに話している二人を眺めるしか出来なかった俺。二人の間を邪魔して玲汰に嫌われるなんて嫌だから、遠くから見てるだけの弱虫な俺。情けないったらありゃしねぇ。



だが、そうやって二人を眺める度に、よく戒くんと視線が合うことに気が付いた。玲汰と話していても、ふとした時に戒くんは俺の方を見てくるのだ。そのくせ、俺と目が合えばパッと逸らしたりするわけで。




瞬時に悟った。戒くんは俺が好きなんだって。




そして、俺と玲汰と戒くんは、歪んだトライアングルに囚われてしまったことを、その瞬間に理解した。





微妙な拮抗を保っているトライアングル。これを崩せば、必ず誰かが悲しむことになるのだろう。





誰も前に進めない。誰もこの関係を崩せない。



歪んだトライアングルが動かないまま、時間だけが淡々と過ぎていくだけ。







「流鬼、ちょっといい?」



ある日の地下活動中。
練習していた戒くんが楽譜を持って俺に近付いて来た。



「なに?」
「ここのフレーズをちょっと崩してみようと思うんだけど、良い?」
「良いけど…あんま調子乗って叩けないフレーズ考えんなよ?」
「そ、そんなことしないもん!」



プクッと頬を膨らませて拗ねるふりをする戒くん。一連の動作に戒くん独特の可愛さが現れるが…俺の前でそれを発揮しても意味ないんだぜ戒くん。俺の気を引きたいんなら、尚更だ。




俺にとっちゃ、苛つく原因にしかならねぇからな。




とりあえず「ま、頑張れ」と言って頭を撫でてやると、見て分かる程にみるみる顔を赤らめていく戒くん。そしていつものヘニャッとした笑顔で元気に「うん!」と答えで嬉々とした足取りで自分の定位置に戻って行った。


それを見送って、何気なく玲汰に目をやれば、不機嫌そうな視線とぶつかった。すぐに逸らされてしまったが…どうやら玲汰は俺に嫉妬しているらしい。玲汰は気付いてんのかな、戒くんの気持ちに。気付いてるからこそ、嫉妬なんてしてんのかな…。



俺のことは見てくれないのに、戒くんのことになると必死なんだな…なんて自嘲する。






なぁ玲汰…どうやったら俺を見てくれる?


その瞳に、どうやったら俺を一杯に映すことが出来る?



どうすれば――――















「流鬼が俺に話ってなに? 珍しいね」



仕事が終わり、全員が帰宅の準備をしている時に、俺は戒くんを連れ出した。「話があるから」と言って、都合良く使われていなかった機材室に二人で入った。戒くんに気付かれないように、静かに鍵も掛けて。




舞台は―――整った。





「ねぇ、流――!」




不思議そうに問い掛けてくる戒くんの唇を塞いで(勿論俺の唇で)、力任せに押し倒した。ガタンッ、と近くに置いてあった機材が音を立てて倒れた。



「んぅっ…っは、ちょ、る――!」



突然のことに戸惑う戒くんに発言の暇を与えず、俺は口付けを深くする。混乱して俺の名を呼ぼうとして開いた唇の隙間から舌を差し込む。突然の異物侵入に驚いて引っ込む舌を捕まえて、掻き乱す。


嫌だと言うように首を振る戒くんの頬をガッチリ挟んで、逃げる隙なんて与えない。押し退けようと腕を突っぱねてくるが、力が上手く入らないらしく、それはなんの意味もなさなかった。



抵抗が少なくなった頃合いを見て、俺は戒くんの服の隙間から腕を入り込ませた。直に、戒くんの腰のラインをなぞる。



「ん、あ、やっ…ヤだっ流鬼!!」



指先が肌をなぞった瞬間、力を振り絞った戒くんの手のひらが俺の側頭部を直撃した。衝撃で吹っ飛ぶ体。辺りにあった機材を薙ぎ倒し、俺の体は停止した。



「いってー…」



口ではそう言ってみたものの、あまり痛みは感じなかった。触れた箇所は熱を持ってピリピリとした痛みを走らせるというのに…俺の思考は至って冷静だった。



「殴るなら気絶するぐらいの力入れなきゃダメじゃね? 戒くん」



ゆっくりと起き上がって戒くんを見る。戒くんの顔は涙で濡れていて、ほんのりと頬が赤くなっていた。肩で息をして呼吸を整えていて、どうやら立ち上がる気力はないらしい。



「さっさと逃げなきゃ。また捕まるぜ?」
「やだ…来ないで流鬼……」
「無理」



ゆっくりとした足並みで戒くんに近付く。逃げようと後ずさる戒くんの体を捕まえて、素早く押し倒した。



すぐ下には、恐怖に染まる戒くんの顔。



「やっ…」
「俺にキスされんの嫌だった? 戒くん、俺のこと好きなんだろ?」
「っ!? な、なんで…」
「気付かないとでも思った? あんだけ目が合って、あんな表情されちゃあ、誰だって気付くよ」



そう。玲汰もな。



「けど悪いな戒くん。俺は、戒くんのことなんてこれっぽっちも愛してないんだよ」



そう言った瞬間、戒くんの顔が絶望に歪んだ。その表情が面白くて思わず笑みが零れる。戒くんて、こんな顔も出来るんだ。玲汰は、知ってんのかな…?



「る、流鬼は…」
「ん?」
「ひっ…それを言うために、こ、こんな事したの…?」
「…いいや、違う」



グッと顔を近付ける。唇と唇が触れそうな程に近く、戒くんに顔を寄せる。視界一杯に戒くんの顔。戒くんの視界も、俺で一杯。



「言うためだけじゃない。戒くんに話があるってのは本当」
「はな、し…?」
「そ。俺さぁ…玲汰が好きなんだよ。でも、玲汰は戒くんが好きなんだ。俺の想いなんて全く届きゃしねぇ。マジで悲しいんだよね」



だからさ、と俺は続ける。



「玲汰が俺を見てくれるように、戒くんを使いたいんだよ」
「使う…使うって?」
「知りたい?」



耳元で、そっと囁く。









「俺が戒くんを苦しめたら、玲汰は否応なしにでも、俺を見るようになるだろ?」





愛しの戒くんを苦しめる、憎悪の対象として。






「あ…あ…」
「そういうこと。だからこれからずっと戒くんには泣いてもらう。泣いて泣いて泣いて、玲汰が俺を見るまで、好きになってくれるまで、泣き喚いてればいい」
「や、ヤだヤだ! そんなの嫌だよ! 流鬼、お願いだから止めて…!」
「それこそ嫌だよ。戒くんに拒否権なんかない」




早速、戒くんには泣いてもらうよ。玲汰が抱きたいと望んだこの体を、俺が先に暴いてあげる。俺の刻印を刻めば、玲汰は俺の仕業だって気付くだろ? そうすれば、戒くんのことしか考えていなかった思考は、俺で埋め尽くされるだろ?



まずは、玲汰の視界に俺が映るようにする。そのために、戒くんには少し痛い思いをしてもらうよ。





声を上げて泣いて抵抗する戒くんを拘束して、俺はその柔肌を少しずつ暴いていった。所々に、俺の証を刻みつけながら―――













――――トライアングルは音を立てて拮抗を崩した。崩壊の先に待つのは幸か? それとも…













――――
トライアングルを壊したら
シド/シャッタースピード

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