ディムグレイの想い
□第七話
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廃墟を後にして、俺とクロロさんは何も無い広場へと足を運んでいた。
稽古をつけてくれるんだったっけ。
前を歩いていたクロロさんが立ち止まり、くるりと俺の方を振り返った。
「この辺でいいか。…じゃあ、龍太、適当に打ってきていいぞ」
「………………………いいんですか?」
神野さんが言っていたように、俺の身体能力は少しというか、かなり上がっていた。
それでもこの人に適う気は全くしないが、当たったらそれなりに痛いんじゃないかと思う。
悩んでいると、クロロさんがやれやれと溜息を吐いた。
「さっき必要とあらば人を殺すと言ったばかりだろう?それが本気なら、傷つける事くらいどうって事ない筈だ」
屁理屈だ、とは言わなかった。むしろなんとなく納得してしまったのは、俺の常識が欠けてきたからなのかもしれない。
「…じゃあ、いきますよ」
イザヤさんに教えてもらった構えを取る。そして一気に駆け、クロロさんの鳩尾めがけて拳を振るう。が、当然ながらクロロさんはそれを俺から見て左に避けた。
「振りが大きいし、肩に変な力が入ってる」
クロロさんの言う事は的確だ。おれはふう、と息を吐いて、余分な肩の力を抜く。
タン、タン、とつま先で地面を叩き、いつもの調子を取り戻す。そう、この一週間してきた事をすればいいんだ。
そう思うと、それからは簡単だった。首の頚動脈を狙えばクロロさんはそれを手で叩き落とし、蹴りを入れようとすれば後ろに飛んで逃げるという力の差が歴然とした組み手を続けていた。
そんな感じで三十分が過ぎ、
「………まあ、こんなもんか」
「…………………ありがとうございました」
クロロさんはヒラヒラと手を振り、俺は頭を下げていた。そして廃墟にいた筈の三人がいつからか此処にいたのに今更気づいて驚いた。
「………いつからいたんですか」
「十五分ちょっと前かな」
シャルさんが笑顔で答えてくれた。結構前からいたのに全然気づかなかった。
「稽古を始めて一週間だったな?」
クロロさんが俺に訊いてきた。俺は頷き、ついでに「はい」と答えた。
「へえ、それにしちゃあよく出来てる方じゃねえか。なあ、団長?」
顎を触りながらノブナガさんが言った。そう言われると、やっぱり嬉しい。
「そうだな。稽古のし甲斐がある。龍太、これから毎日稽古つけてやるからな」
「あ、ありがとうございます」
そう言って頭を下げて、元に戻すと。クロロさんが何か企んでいるような表情(カオ)をしていた。
「そうだ龍太。お前、剣術を習う気は無いか?」
「?」
「ある程度身体が出来てきたら、お前、ノブナガに剣の稽古つけてもらえ」
「げ」
話を振られたノブナガさんは、それはもう面倒臭そうな表情をしていた。
「冗談じゃねえぜ団長!俺ァ弟子なんか取る気ねぇよ!!」
「そう言うなって。龍太だって武器の一つや二つ使えた方が後々役立つかも知れないだろう?」
んな事知るか。とノブナガさんは切り捨てたがクロロさんがどうしても引かない。なんで此処まで剣術に拘るんだろう?
そう思っていると、女の人が俺に近づいてきた。
「団長、面白がっているわね」
「ああ、やっぱりそうですか」
自分が面白ければ、他人に迷惑がかかろうが気にしない人なんだろう。現に今、自分の楽しみの為にノブナガさんが迷惑を被っている最中だ。
「自己紹介がまだだったわね。私はパクノダよ」
「十叶龍太です」
貴方これからも苦労しそうね。そう言って、パクノダさんは微笑んだ。笑うところなのだろうか。
それはともかく、何で盗賊がこんなにフレンドリーなんだろう。と俺は他人事のように思うのだった。
end