家主がいないのを良いことにそこらに顔を突っ込み面白みのあるものが無いかを物色する。が、今回の家主は本以外にほとんど生活用品しか置いていない。
時々よく分からない呪われそうな品を手にホクホクとした表情で帰ってくるが、怨念渦巻く雰囲気を醸し出しているので手は出さない。エロ本とかねーよかよ面白くない。
《暇ー》
その声が届く事など滅多に無いわけだが。時々勘のいい猫や子供がこっちに気づいてはくれるが意思の疎通はできねぇし。
お察しの通り、俺は此処に住み着く幽霊だ。此処にいる理由も死んだ原因もとんと思い出せないが、それなりに呑気な幽霊生活を過ごしている。
エロ本探しに飽きて天井に埋まってぶら下がってみたりポルターガイスト起こしてみても、やっぱり家主がいないので意味はない。
そもそもこんな幽霊の出る曰く付き物件に住み着く人間なんだからまともなはずがない。あれだ、イケメンだけど実はマフィアとか借金に追われて仕方なくとかそんなんだろう。
そんな事を考えている内に家主か帰宅した。相も変わらずイケメンである。ちくしょうイケメン滅べ。
イケメンは帰ってくるなりコートを脱ぎ捨て床に積み上げられた中から本を一冊拾い上げ柔らかそうなソファーに腰掛けて読書を始めた。飯は済ませたのかもしれないがせめてコートはコート掛けに戻せ。
《生活力ゼロかこの男…借金苦というよりヒモかもな…》
呟きつつ気になったのでコートを掛けてやり、ついでに脱ぎ散らかされたブーツを揃えてやる。あ、玄関の電気付けっぱなしじゃねぇか。
不意にこの行動が主婦みたいだと気づき、頭が痛くなる気がした。痛くなる神経も脳味噌も持ち合わせてはいないはずなんだけどな。
いや、俺だってこの家主が来たばかりの頃は頑張ったんだ。ポルターガイスト現象起こしたり家主の後ろに立って鏡に映ったり夜中に呻いたり目覚めた時に目が合うようにベッドサイドでイケメンの寝顔ガン見してたり。でも、家主は図太いのかこういった現象に馴れているのか何の反応もなかった。泣きてぇ。
なんの反応もない家主に飽き、俺はもう好きに生きることにした。死んでるけど。まぁ家主もここまで物が動いてりゃなんかいるとは気づいてるだろう。それでも出て行かないなら俺も好きにさせてもらおうじゃないか。
冷蔵庫に頭を突っ込んでいた俺は、家主がこちらを向き呆れた顔をして「誰がヒモだ」と呟いたのに全く気づかなかった。
《あ、牛乳の賞味期限切れてらー》
(それにしても、相変わらず世話焼きだなあの幽霊は…)
end