プラトニックシリーズ
□重みを含む言葉
1ページ/1ページ
「名無しさんは誰との相性をあげたい?」
「あ、相性?」
水晶の前でにこにこと笑うメルさん。暗闇の慣れない部屋でもじもじと辺りを見渡す。
「え、えーと。相性…」
「うんっ」
にこにこ。
「…む、難しいね!」
こんなときでも、浮かんでくるのはあの人のことばかり。頭を振って浮かび上がる顔を必死に消す。
…正直、オスカー様との相性をあげたい。もし相性があがったら…もしかしたら………す、好きになってくれるかもしれない。
ここは恥を捨てて言ってみるしか…!
「………ス……カさま……で」
「え?」
「お、すかー…様で……」
ブッ
「!!」
笑いを吹き出した声が聞こえた方向へ振り返ると、そこにはお腹を押さえながら笑っているセイラン様がいた。
いつのまに…!?
「な…ななっ…!」
「いや、ごめんごめん、盗み聞きをしたわけではないよ……ぷっ。」
「わ!笑わないでください!」
ふと目線を戻せばメルさんが口をぽかんと開けている。まだ子供だからか、理解ができてない様子で。
「えっと…取りあえず、オスカー様でいいんだよね?」
「は…はい…」
「ククッ…」
まだ笑い続けるセイラン様をキッと睨みつけメルさんにお礼を言い足早に館から出て行った。
「ねぇ、待ちなよ名無しさん」
「……なんですか」
「ほんっとに君、好きなんだね。オスカー様のこと。」
「バラしたきゃバラして下さい」
「こんなに楽しいこと言うわけ無いじゃないか。」
後ろからついてくるセイラン様をチラッと一瞥したら酷く楽しそうに笑っていて、ふと、私の隣に素早く並ぶと前方を指さした。
「君の大好きな人」
指された方には、あの人が綺麗なお姉さまを二人連れて歩いていた。
なんてデジャヴなんだろう。
「………!」
思わず俯き、歩行も止まった。
「………名無しさん?」
聞こえてくる足音。体が拒絶反応を示すかのように一歩後ずさる。隣にいるセイラン様は真っ直ぐとオスカー様をみているようだった。
「こんにちは、オスカー様。」
「……セイラン。珍しいな、お嬢ちゃんとデートか?」
「ええ。そちらもお楽しみのようで」
思わぬ言葉に思考が停止した。セイラン様と私が、デート?
「ち、ちがっ!」
「いいじゃないか。お嬢ちゃんもすみにおけないぜ。素敵な教官様にエスコートをしてもらって…なあ?」
かぁっ、と顔が赤くなる。なんだかとても悔しい。なんでそんなことを言うの?
「オスカー様の言うとおり素敵な教官様ね。まるで白磁の陶器のような美しいお顔…」
「ねぇオスカー様!この方、私達にも紹介してくださらなぁい?とっても気に入っちゃった」
オスカー様の隣にいた女性が甘えたような目線でオスカー様を見つめる。もう一人の女性はセイラン様に釘付けだ。
「おいおいレディ達。近くにこんなイイ男がいるのにそんなこと言うなんて酷いな?」
「だってすごーくお綺麗なんだもん!ねっ?いいでしょ?」
セイラン様の顔が一瞬、歪んだようにみえた。女性はオスカー様の腕から離れセイラン様の前へ立つと頬に手を添える。
「ねぇセイラン…さんだっけ?あなた凄くいいわ。まるで芸術品みたいよ。今から私たちと遊ばない?」
「………」
まるで蚊帳の外の私。セイラン様は無表情のまま上から女性を見下ろしていた。目のやり場に困り、少しだけオスカー様の方に目線をやった。
見事に、バチりと目が合う。
まるで元からオスカー様がこちらをみていた錯覚が起きる。慌てて目線を逸らせばセイラン様の服の腰あたりの裾を軽く握った。この場から早く去りたい。
「……フッ」
そんなわたしに気づいたらしいセイラン様が間をおいて笑う。
「残念だけど僕にはこの子がいるからね。あんた達みたいな人の相手なんてそこで突っ立ってる人で充分だろう?」
「なっ…!」
セイラン様は私の腰に腕を回すとオスカー様たちに背を向け、そのまま歩き出した。
「ま、待ってセイラン様!私は …!」
「君は」
どんどんと遠くなるあの人。女性の悔しそうな声が聞こえる。
「君は、可哀相だ」
重みを含む言葉
(意味がわからない)