プラトニックシリーズ
□選択肢はいつも難解
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日の曜日。私はとある方の執務室の前で思案を巡らしていた。というかただウロウロしていた。
「(いやいやいや…本当に来ちゃったよ……どうしよう…!)」
無機質な扉を前にノックをしようと伸ばした手が宙に浮いたまま、数分。
「(どうしようどうしよう。オッケーしてくれるかな、忙しいかな…!)」
そっと服の上から胸を押さえる。ドキドキ、ドキドキ。ずっと高鳴っている鼓動。この先にはあの人がいるんだ。
よし、覚悟は決めた。落ち着いていこう!
「……お嬢ちゃん?」
ガンッ
「お、おい…」
「…!…!」
心の準備がまだだった為あまりに吃驚して、ノックの一発目が空振りし隣の壁を殴ってしまった。痛すぎる、血が出たかましれない。
まさかの外ですか!!
「何をやっているんだ、自分から可愛い手を傷付けるなんて」
「ああ…あの!こんなの大丈夫ですから!」
オスカー様の瞳をみれないまま必死に首を振るものの優しく手を掴まれる。
「(う…わ…!)」
「ほら、赤くなっているじゃないか。」
オスカー様の髪の一部が視界に入りパッと顔を上げては物凄く間近にオスカー様がいた。
頬に口が当たり、そうで。
「……」
お互いの目が見開き、気付いた時には距離をとっていた。多分今、わたしの顔はこの上ないぐらい赤い。
「……で、今日は俺に何か用があったんじゃないのか?日曜だから育成は無理だぜ」
「あ…」
気まずい空気を先に打ち消したのはオスカー様の方だった。そうだ、今日はデートに誘いに来たのよ!よ、よし!
「お…オスカー様……あ、あの!あのですね!」
「あら!ここにいらっしゃったの、オスカー様!お迎えに来ましたわ!この日をどんなに心待ちにしていたか…」
私たち二人の前に現れたプラチナヘアーのお姉さん。あれ?この展開は後何回あるの?むしろどれだけ予約待ちしてるんだ。
「ああ…レディか」
「さて、行きましょう!」
お姉さんはオスカー様の腕に絡みついて艶やかな笑みを浮かべる。正直こっちまで鳥肌がたつほど綺麗なのがムカつく。
「悪いが少し取り込み中でな、外で待っていてくれないか?」
「そう…早くしてね?」
「ああ、いい子でな」
オスカー様は女性の髪を掻き分け額に唇を落とすと二人は永遠の別れかのように熱い抱擁をかわす。
みたくない、みたくないのにどうしても視界にうつってしまう。
なんで何回もこんな惨めな気分を味わなくてはいけないの。こんなのを見にきた為に来たんじゃない。
「悪いお嬢ちゃん、それで、俺に……何か………」
ぼろ、ぼろ、と可愛げがない大粒の涙が零れてくる。
「……お嬢ちゃん、どうかしたのか。」
「…っ…………」
必死に涙を拭うが、どんどん溢れて止まらない。ああ止めて止まって。オスカー様が困る。
「………お嬢ちゃん…」
「……う……っ…」
突然、私の身を隠すように死角になる壁際に追い詰められ、頬に手を添えられた。子供をあやすような手つきで優しく涙を拭われ、頬にキスをされた。
頬に、キ、ス…?
「っ……!?」
目の前には眉を下げて笑うオスカー様が、もう一度額に唇を押し付けて言葉を漏らす。
「……お嬢ちゃん、次の…」
「…え?」
「オスカー様、お取り込み中のところすみませんが」
お互いの動きがピタッと止まる。オスカー様の肩越しに声の発信源をみた。
「セイラン様…!?」
「やあ名無しさん。で、オスカー様。綺麗な女性がオスカー様をずっと呼んでいて正直うるさいのでなんとかしてもらえませんか?」
「ああ悪い。お嬢ちゃんとの逢瀬ですっかり忘れていた」
「何分も女性を待たすなんてオスカー様らしくないですね」
二人とも物凄く爽やかな笑みを浮かべているが、逆にそれが少し怖い。この空気はなんだろう。
「早く行ったらどうです?」
「分かっている。……じゃあ待たな」
「っ!」
甘い低音が不意打ちで耳に届く。もうすっかり涙なんて渇いていた。
選択肢はいつも難解
(隣でセイラン様が小さく舌打ちしていた)