プラトニックシリーズ

□プラトニック・ラブ
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ああ、キスってこんなにも熱くて激しくて気絶しそうになるものなんだ。立ったまま交わされ続けるお互いの唇。啄まれたり軽く吸われたりする度に足が震える。


「んっ、う、んん…」
「ん…はあ……」

この人は慣れてるんだ。きっと余裕をかました表情をしているに違いない。吸い込もうとする息さえ奪い取られるのだから。酸欠で、死にそう。

憧れの人とのキス。


て言うか…なんでキスを、してるんだろ………



「…っはあ、名無しさん……お嬢ちゃん…?」


朦朧とする意識の中、おい誰かきてくれ、医務室、と叫ぶオスカー様の横顔が最後にみえた。







「…ご迷惑をおかけしました」

「それは俺のセリフだ。無理をさせて悪かった」

見かけない天井をバックにオスカー様の顔が近付いて、額に口づけられる。あまりに情熱的なキッスに情けないもののぶっ倒れてしまった。今日はとんでもなく激動の一日だった気がする。窓の外はすでに真っ暗。医務室に運んでくれた方々も早々に帰って行った。残っているのは私たちだけ。


「あの…オスカー様…」

「なんだお嬢ちゃん。添い寝してほしいのか?」

「違います…!」


そういえば、この方は私のことをどう思っているんだろう。一方的に私が告白して答えをまだ聞いていない。…こんなにキスをされているということは、期待してもいいのでしょうか、オスカー様…自惚れてしまう。


「好きだ」

「…え?」
「お嬢ちゃんのことはずっと前から好きだったんだぜ」

あたかも見透かされたように、求めていた言葉が耳に届く。思わず涙腺が緩み泣き出しそうになった。

両思い、両思い?ぶわっと周りに花が咲き誇った気がする。


「…だが、女王候補と守護聖が付き合うだなんて前例がない。そんなの許される運命ではないんだ。女王候補はいずれ女王になる。女王はみんなの女王陛下だ。俺だけの女王陛下であっては、ならない」

自嘲するような発言に、思わず声を荒げる。

「そんなの………わたし、まだ女王になるって決まったわけじゃ!!」

「その通り!」

「はい?」

突然オスカー様の瞳がキランッと輝き、私の両肩に手を置いた。


「そこに目をつけたんだ。お嬢ちゃんを女王にさせなかったらいいんだ、とな。いっそ身を攫って静かに暮らそうかとさえ考えた」


私の手を握り、悪戯っぽくにぃっと笑う。まさかオスカー様がそんなことを考えていただなんて。もしかして、それでオスカー様はレイチェルに加勢していたのだろうか。


「君と育んだ惑星を、潰してすまなかった。…これだけはどんなに謝っても拭えないとわかっている」

「………オスカー様」

「この作戦を、宮殿で君と会ったあの後にルヴァに話したら血相変えてこっ酷く叱られたさ。」


この人はこの人なりに色々なやんで考え出した結果があれなんだろう。まさかあんなときに、もうこんなことまで…重たい上半身を起こし、オスカー様の顔をじっとみつめる。

「お嬢ちゃん、まだ安静に」

「オスカー様。私、女王になれと言われれば女王になると思います」

オスカー様が険しい表情をして握っている手に力を込めた。その上に片方の手を覆って何度も撫でる。


「でも、女王になったとしても私はオスカー様を愛し続けます。ひっそり陰ながらとかじゃなくて堂々と!女王だって人間ですもの、守護聖と恋愛ができない?そんな壁とっぱらっちゃいましょう!」

少し興奮気味に伝えてみれば数秒たって顔を赤くしオスカー様が噴き出した。言ったあとで凄く後悔をする。は、恥ずかしい…!

「ククッ…たしかに、君みたいな子が女王になったらこの宇宙は安泰だな」

頬にちゅっとキスをされ両肩を掴まれるとそのまま先程と同じ態勢に戻されてしまった。


「だが名無しさんは俺のものだぜ。それだけは譲れない。民にも星にも宇宙にも、たとえ神様女神様にだって、誰にも譲らない……君を愛していいのは俺だけだ。ん……」


どうしてそんな言葉がすらすら出てくるのだろう。ちょっと噛んだりしたらおもしろいのに。意外にオスカー様も独占欲が強いんだなあ、なんてぼーっとしながら聞いていると乱暴に唇を重ねられた。ここは医務室、誰が来るかわからないのに、片足をベッドに乗せ覆い被さってしまう。


「や、ちょっ………と、オス……!」

「お嬢ちゃん。俺はたとえ君が女王になろうが補佐官になろうがこの飛空都市から出ていこうが、地の果てまで追いかけて俺の物にするつもりだ。今なら俺を突き飛ばせばそんなマネはしないと保障しよう。さて、どうする…?」


囁きながら鎖骨に痕を残していく。この人は何も変わっちゃいない。最初からずるくて、意地悪で、王子様とは掛け離れた存在なのに。胸板を押し返していた腕をそっと緩めると、満足そうにオスカー様は微笑んだ。



















「よう、待ってたぜ。『女王補佐官』様?」

「なんでしょうかオスカー様…私はとーーーーっても忙しくなるんですよ明日から!」

「つれないな。この前まで私が女王になってもこの宇宙とオスカー様を愛します〜なんて言ってたのはどの口」

「アアアア!うるさい!!!元はといえオスカー様がバンバン惑星潰していって取り返しがつかなくなって負けちゃったせいなんですよ!?」


―――新女王即位式の帰り。宮殿の外でバラの花束を持って迎えにきてくれていたオスカー様を素通りしようとしたら普通に捕まってしまった。


あの告白から数か月経ったこの日。会話の通り、私は『女王補佐官』という素晴らしい命を承りました。


「あれは俺とお嬢ちゃんの未来を思ってなんだが」

「貴方は何をしたいんですか!女王陛下にも守護聖様にも私たちの関係を暴露しちゃうし、何なんですか貴方は…許してくれただけほんっとに不幸中の幸いで…」

「これで安心してどこでもキスができるじゃないか」


腰に腕を回され、ぐっと距離が縮む。こんなことは告白した日から何百回もされてきたくせにまだ慣れない。口をぱくぱくしていると鼻の先にバードキスをされてしまった。


ここは!宮殿!!外!!!



「アッハッハ、怒らないでくれ。お嬢ちゃんが可愛すぎるのがいけないんだ。」

「オスカー様…!」

「――――女王補佐官、がんばってくれ。これはほんの気持ちだ。受け取ってくれないか?」


先程から手にしていた花束を受け取り、不服ながらもお礼を伝える。何百本あるのだろう、このバラは。



二人で歩いていると、ふとオスカー様が思い出したように私に案をだした。


「名無しさん。あの場所へ行かないか?」

「あの場所?」

「忘れたのか?俺と名無しさんがはじめて会った、あの場所さ。初心に戻るのも悪くないだろう。あの花屋の女の子にも報告しないとな。」


ふたりで笑い、駆けだす。



固く手を結んで、解けないように。






これは非常に難しい精神的な恋。



プラトニック・ラブ

(end)







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