三國無双

□君とふたり。
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「君とふたり。」



自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。
いつの間に眠っていたのか、そんな事を
考えながら机から顔を上げる。
隻眼の瞳が眠たげに開かれた。

「元譲!!いないのか!?」

聞きなれた声に驚いて立ち上がる。
聞き間違える筈もない、まぎれもなくそれは自分の主の声だった。

「孟徳!!?」

慌てて扉を開けると想像通り曹操が立っている。
反応が遅かったことに対してなのか、
少し怒ったような顔をしていた。

「孟徳、なぜここに…」

いいかけて、曹操が手に持っている壺に
目がとまる。
おそらく酒が入っているのだろう。

「…なぜ、だと?」

怒気をはらんだ声音に後ずさる夏候惇。
今度は理由が分からない。
なぜこんなにも目の前の男は怒っているのか。
自分がなにをした?

「お前など、もう知らん!!帰る!!」

ぐいっと酒の入った壺を夏候惇に押し付けて
曹操はきびすを返して走って行った。
追いかけなければいけないような気がしたが、
理由も分からず追いかけても許しては
くれないだろう。
とりあえず持たされた壺を眺めてみる。
…酒。
…酒?

あ、と声を出しそうになった。
戦から帰ってきた時…数日前の会話を思い出す。


「元譲、無事で何よりだ」
主は自ら馬にまたがり夏候惇たちの出迎えをしていた。
仕事はいいのかと聞けばお前の方が大事だと
恥ずかしい台詞が帰ってくる。
「迎えにきてやったのだ、酒ぐらいは付き合ってくれるだろう?」
「あー…そうだな。軍の再編成と被害の確認をしなければいけないからな。3日後でどうだ?」
「分かった」

嬉しそうに笑っていたのに。
あまりの忙しさに追われすっかりと忘れていた。
(あいつ、どんな気持ちで…)


走って行く前の、悲しそうな表情を思い出して胸が苦しくなる。
孟徳を捜さなければ。
夏候惇は壺を机の上に置いて、小走りに部屋を出た。
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