短編

□捕まえたのは
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『−−…せーちゃん…せーちゃん…!』


後ろから、自分を呼ぶ声が追い掛けてくる。


『せーちゃん。まってせーちゃん!』


パタパタと必死について来る足音に、うっそりと頬が緩むのを止められない。


『あっ!』


小さな叫び声の直後ズザッと地面を擦れる音が響き、振り返ればと金糸が地面に突っ込んでいた。


『なる!!』


俺は慌てて駆け寄ると、金糸を支え起こす。


『なる、大丈夫か!?』


地面に座らせて全身の怪我の状態を確認すれば、どうやら顔は怪我しなかったようだが綺麗な金糸は土に塗れ、足を擦ったのか膝に赤が滲んでいた。


『なる…?』


返事をしない成美に、泣いているのかと顔を覗き込めば、予想外の表情に思わず凝視する。


『……えへへっ//』


何がそんなに楽しいのか、成美のにへら〜っと嬉しそうな表情に、何だか少しムカついたので、デコピンを喰らわせてやる。


『ぃたっ』

『…何笑ってやがる』


僅かに眉間に皺が寄るのが分かる。
こちらは本気で心配しているというのに、転んだ当の本人がこれでは…
まぁ、"心配して損した"と言いたいところだが、成美の事で損することなんてないので、それ以上は言う気は無いのだが。
デコピンが本気で痛かったのか、目尻にうっすらと涙を浮かべて恨めしそうに睨み上げてくる成美の頭をもう一度パコンと叩くと、ハンカチを取り出して血の滲む膝を拭ってやった。
すると成美はギュッと俺の服の裾を掴む。


『…?』


行動の理由が分からなくて成美を見つめ返していたら、成美はそれはそれは嬉しそうに笑った。


『…せーちゃん、捕まえた!』

『…!』


その言葉で、何で成美が嬉しそうに笑っていたのか、漸く分かった。
俺は成美に追い掛けられるのは嬉しいが、成美はそうではなかったらしい。
だから、転んででも自分を捕まえられて嬉しい、と笑っているのだ。


「……ばーか。俺が捕まりに来てやったんだろ」


ちょっと気恥ずかしかったので少し素っ気なく言い放てば、成美はあっ!とか言った後何か悩みだした。
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