「更木たいちょー!!」
目立ち過ぎる後ろ姿を前方に見つけて走り出す。
大きな背中がのそりと面倒臭そうに振り向いた。
「どちらへ行かれるんです?」
「ただの散歩だ」
ぶっきらぼうな返事にめげずに食い付く。
「ご一緒しても?」
「勝手にしろ」
図々しく隊長と肩を並べて歩く、にはあまりにも身長差がありすぎて、見上げていると首が痛くなってきた。
そこでふと気付く。
「あれ、そう言えば副隊長はご一緒じゃないのですか?」
いつも大きな背中にくっついている桃色が今日は見当たらない。
「やちるなら浮竹に菓子でもたかりに行ってるんじゃねぇのか」
「成る程・・・」
納得して再び歩き出すも、珍しくできた隙間が気になってきた。
副隊長ばかりずるい。
そう思って羨望の眼差しを向けたのは一度じゃないのだから。
「隊長」
「アァ?」
「私もおぶってください」
何言ってんだこいつ、という視線が痛い。
「知るか。テメェで歩きやがれ」
案の定の返答。
でも、今日の私は挫けないのよ。
「いいじゃないですか。たまには私もおんぶしてくれても」
「・・・・・・・・・」
ただでさえ悪い目付きを更に悪化させて、隊長が訝しんでいる。
なかなか一筋縄では行きそうにない。
こうなったら強硬作戦。
「隊長がおぶってくれなきゃ私、ここから動きませんよ」
わざとらしく地面にしゃがんでみせる。
こんなわかりやすい駄々を捏ねて、副隊長より子供だ。
「ハッ、好きにしやがれ」
じろりとひと睨みしただけですたすたと歩き出した隊長に、がっくりと肩を落とす。
しょぼくれて床に座り込んだままでいると、遠ざかっていた足音がぴたりと止んだ。
近づいてくる影にはっと顔を上げれば、ばつの悪そうな顔をした隊長が私を見下ろしていた。
気だるい舌打ちがひとつ。
「手間の掛かる野郎だ」
片腕でひょいと襟首を掴まれ、背中におぶられる。
正確には、しがみついているという形容が正しい。
本当はもうちょっと女の子らしく抱え上げて欲しかったけれど、この際文句は言うまい。
広い広い背中は、ごつごつして、頼もしい。
なんだかんだ言って、うちの隊長は優しいから。
いつもと違う景色を噛み締めて、おどけて隊長の首に腕を回した。
「ふふ、更木隊長、ありがとうございます」
「・・・・・・・・・」
複雑な表情の横顔、それでも邪険にされないのが嬉しくて気にならない。
私もとんだお調子者だ。
「隊長、副隊長をお迎えに行きませんか?」
そして、副隊長に少しだけ羨ましがられて、帰りは二人ともおぶってもらうの。
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