Side dish:Onyx
□4:白梟
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彼女の仕事振りは、お世辞にも褒められたものではなかった。
食器を洗えば、必ず一つはその数を減らし、洗濯をすれば、白い物が桃色に染まっている事もあった。
家事に無頓着なダンテに代わり、必然的に彼女の仕事の前任者だったバージルがその失敗の度に、溜め息混じりに彼女を諭す日々が続いている。
教えなければ、一週間と経たずに生活用品が無くなる…ダンテが教えれば事態は悪化するだけ…仕方なくでも、彼が教えるしかなかったのだ。
そしてバージルと彼女は今、師弟の様な関係だった。
今日も今朝に一度、コップを減らした彼女に溜め息をついたバージルは、その片付けを手伝ってやった後、彼は一人、自分の書庫で読書をしていた。
窓際に運び入れたお気に入りの椅子に座り、机に向かい、バージルが落ち着く静けさの中、本を読んでいると、不意にノックの音が何度か響いた。
それからややあった後開かれた書庫のドアにバージルが目を向けると、箒(ほうき)等の掃除用具を持ったケリーが立っていた。
因みにこの、部屋に入る前にノックをするという事を、彼女に教えたのもバージルである。
「掃除をしに来たのだけれども…」
椅子に座るバージルを見つけて、掃除の勝手が解らないらしいケリーが、箒を手に彼へ歩み寄りながら尋ねる。
そんな彼女に、読み掛けの本からバージルは、静かに顔を向ける。
「此処はしなくていい。」
それだけ言ってバージルは読書を再開する。
言うなれば此処は、彼の占有地なのだ。
ダンテが自ら此処に踏み入る事はなかったが、そうでなくとも、自分以外の者が此処に手を加えるのは不快…掃除等…ましてや一日一回は溜め息をつく様な掃除等、問題外だ。
バージルに仕事を一つ免除されたケリーは、慣れない事に次が思い浮かばず、何となくこの部屋を見渡してみる。
人一人が漸く通れる間隔で林立した、ぎっちりと本が納まった本棚の密集。
自分の身長の倍はありそうなその高さに圧倒され、本棚を興味津々に見上げていたケリーは、自分の目の高さにあった一冊の本に、目が止まる。