Side dish:Onyx
□5:銀狼
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深夜、脱衣所から出て来たダンテは、濡れそぼった毛先から伝って裸の上半身に落ちる水滴を雑に拭きながら、ぎしぎしと床を軋ませ、自室へと向かう。
鼻歌混じりにドアを開け、中に入ってドアを閉めると、鍵をかける習慣なんてない彼は、髪を拭いたタオルを近くにあった椅子の背もたれに放って、ベッドへ飛び込んだ。
ごろりと寝転がり、シーツもかけずに、彼はゆっくりと目を閉じる。
…しかし、眠る訳ではない。
彼は、毎日こうして、待っているのだ…あの日から。
寝たふりをして隙を見せないと、近寄っても来ない待ち人が、その『しっぽ』を見せるのを。
そして今日は、期待出来そうだ…何故なら、じっとこっちを見つめていた。
色気が無いのはつまらないが、まあいいさ。
そう思いながら、ダンテは遠く近付く気配を感じて、静かに唇を上げて笑った。
…足音を忍ばせ、ケリーはその部屋に歩み寄る。
気配も消して、辺りの静けさと、同化する様に近付く…
此処に住み始めて、早数週間…彼女の側からしてみれば、何の進展も無い状況を、そろそろ打破しなければならない。
ひょんな事から同居人となった兄弟の、弟の力量は少なからずとも解っている。
だから次に行動を仕掛ける時は、まだ未知数だった兄から…と、彼女は思っていたのだが…
思わぬ所で恩を受け、彼の力量も垣間見てしまった。
今夜そちらに向かうには、余りに不利益…かといって、また進展の無い日々を消費するのか…否、それも彼女には好ましくはない。
この部屋に来るしかなかった…少なくとも、今の彼女の思考では。
ケリーはそっとドアに耳を当て、中の気配を窺う。
物音一つしない中に警戒しながら、ケリーはそっと、ドアを開ける。
閉める音を嫌ってドアを開け放ち、風呂上がりのまま眠る彼へ、手に持った大振りのナイフを背後に忍ばせて、ゆっくりと近付く。
彼が起きていようがいまいが関係ない…覆せ無い力の差を、とうに彼女は知っている。
…お互いの間合いに入っても、尚も動かない彼を見て、ケリーが先に、彼へ仕掛けた。