〜この手に太陽を〜
□戦場
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雄叫びや悲鳴、剣戟や爆発の音が響く戦場。
傷を負った一人の武士が、よろめき地面に倒れそうになる。
それを誰かに支えられた。
驚き顔を上げると、黄金の瞳と目が合った。
『しっかりして。
まだ敵がいるから、あそこでしばらく休むと良いと思うわ』
男はその言葉に促され、少女の肩を借りて立ち上がる。
そして歩きながら彼女に問うた。
「あんたはもしかして…
"泥梨姫"…なのかい…?」
すると少女は凛とした声色で、「ええ」と短く答える。
やはりそうだったか…、と思うと同時に、彼は些か驚いていた。
金の瞳も灰の髪も緋の羽織りも、そして見蕩れてしまいそうになる程の美しさも耳にしてきた泥梨姫の容姿と同じではあったが、
その身は想像以上に小さくて、年齢など自身の娘よりも幼いように感じたからだ。
しかし、
“戦に出るのに老いも若いも男も女も関係など有りはしない”
それが彼という男の考えだったので、大人しく物陰に身を潜めた。
十程の天人の群れに少女が突っ込んだかと思うと、次の瞬間その半数が倒れる。
残りの半数は果敢にも小さな躰に攻撃を加えるが、羽織を翻した彼女の斬撃により、やはりその場に伏してしまう。
その様子を見ていた彼は、思わず瞠目した。
──凄い…なんという強さなんだ…殆んど傷も負わずにあの天人らを倒すなど…
──それにあの姿、本当に焔が燃え盛っているかのようだ…
そして同時に、なぜ泥梨姫の年齢や体格が伝わらなかったのかを悟る。
素早く地を駆け高く跳躍し、重い筈の刀を軽々と振り回すその様は、本来の幼さや小柄を全く感じさせないのだ。
『くっ…!』
しかし暫らくすると敵の数が増え、少女が押され気味になってきた。
男は物陰から飛び出し、彼女と背中合わせになる。
『あなた…!
もう大丈夫なの?』
「ああ、もう充分に休んださ。
だから私にも戦わせてくれ。
女の子一人に任せていたら、武士の名が廃っちまう」
『…うん!
それじゃあ頼んだわよ!』
それからは高杉や辰馬達の援けもあり、その日の戦は勝利した。
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