〜この手に太陽を〜
□休息
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『陽路ちゃん。
足元を見ながら歩かないと、滑って転んじまうよ』
「うん、気を付けるわ。
八松さんはここで休んでてね」
『ああ、済まないね』
「気にしないで。
それじゃあ、あたしも魚釣ってくるから」
---八松視点---
私が陽路ちゃんに救けられ銀時君らと暮らし始めてから、数ヶ月が過ぎた。
兄妹のように仲の良い彼らとの生活は、思った以上に楽しい。
(そう銀時君に話すと、「陽路はともかく他の奴と兄弟なんて有り得ない」と言われたが)
それに、彼らは本当に良い奴らだ。
先の戦で負った怪我が治っていないので、何か有った時に自分が居ると不都合だろうから留守番をしていると伝えたのだが、「まぁ大丈夫だろう」と、こうやって連れてきてくれた。
お陰で蒸し暑い寺に籠もらずに済んだのだ。
…足を浸けている川の水は澄んでいて、時折魚の群れが通り過ぎていく様子が見て取れる。
樹々は枝を大きく伸ばし、地面に影と木漏れ日を落とす。
蝉も鳴いていて、実に夏らしい。
対岸では、陽路ちゃんと晋助君が釣竿を並べている。
その少し下流では、銀時君、小太郎君、辰馬君の三人が川の中で何やら騒いでいるが、いつもの事だから特に気にする必要も無いだろう。
こんな平和な光景を眺めていると、今が戦乱の世だという事も、自分達が攘夷志士だという事も忘れそうになる。
そしてふと思い出すのは、故郷に残してきた妻と子供達の事だ。
私がこの攘夷戦に参加し始めたのは、もう何年も前になる。
去年帰郷した時は、娘は十五歳になっており、まだ小さかった息子も随分成長していた。
そしてその子供二人と妻も交え、川で水遊びをした。
『楽しかったなぁ…』
…それからは、故郷に帰っていない。
妻には家事も子育ても生活費を稼ぐのも、任せきりになっている。
子供達も寂しがっているだろう。
それでも、夫らしい事も父親らしい事も殆どできていない私を待ってくれている。
そんな家族を持てた私は、果報者なんだろうな…
それに今は陽路ちゃんを始め、志を同じくする彼らもいる。
やはり私は、果報者だな。
…ん?
彼らが私を呼んでいるな…
そう言えば、もう昼飯時か…
『ああ!
すぐそっちに行くよ!』
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