〜この手に太陽を〜

□失踪
3ページ/6ページ






天気は悪く、雲が重く垂れ込む空は鈍色。


混乱する戦場、部隊からはぐれ、

気が付けば仲間は、俺と同じく傷だらけになっているヅラだけ。


俺達の周りを囲むのは、数多の天人の軍勢。


地面に膝を付いたヅラは、悔しそうに、諦めたように呟く。



「これまでか……
敵の手に掛かるより…最期は武士らしく…潔く腹を斬ろう……」



俺は…これで終わるのか…?

この手で幕を下ろせば…
楽になれるのか…?

数え切れない程の仲間を死なせちまったこの苦しみから…
陽路まで居なくなっちまったこの悲しみから…
解放されるのか…?


そんな思いが脳裏を掠めていく。


しかし、ふとある言葉を思い出した。



「生きて帰りましょうね」



それはアイツが、幾度と無く俺達に向けた言葉。



…そう…だよな、陽路


俺は生きて帰んなきゃなんねェんだよな

楽になろうなんざ、思っちゃなんねェんだよな


いや、たとえここで自刃したって、絶対に楽にはなれねェんだ


俺は、最期まで生きなきゃなんねェ

それが、生きている者の義務なんだから…



『バカ言ってんじゃねーよ。

…立て』



もう、身体的にも精神的にもボロボロで、本来なら躰を動かせる状態じゃねーのかも知れねェ。

この戦、どっちが勝ってどっちが負けるのかも、もう既に目に見えている。


だが俺は立ち上がり、背後のヅラに声を掛ける。


自分をも、奮い立たせるかのように。



『美しく最期を飾り付ける暇が有るなら、最期まで美しく生きようじゃねーか』



すると奴もフッと笑い、立ち上がる。


そして俺達は刀を構え直し、



『行くぜ、ヅラ』


「ヅラじゃない、桂だ」



同時に地を蹴り、天人の壁に突っ込んだ。



『「うぉおおぉおぉッッッ!!!」』





――――−…‥
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ