〜みんなの日常〜

□俺の恋人
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そして午後十時、酒と盃を包んだ風呂敷を持ち、呼ばれた場所に向かう。



『あれ…?』



そこには普通なら誰もが使用するであろう梯子が無かった。



まァ運動神経の良いあの子の事だ

傍に植わっている樹をよじ登りでもして屋根に上がったのだろう



俺も樹伝いに屋根へ登る。



「あ、来た来た」



鈴ちゃんは俺の姿を見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。



『はい、君から先にどうぞ』



そんな彼女に盃を持たせ酌をし、そして自分の分も注ぐ。



『それじゃあ、乾杯』


「乾杯」



二人同時に酒を喉へ流し込む。



「美味しいですね」


と、鈴ちゃん。



『うん、そうだね』


と、返す俺。



天を仰ぐと、そこでは真ん丸な月が煌めいていた。



屯所の周辺に在るのは民家や屋敷、営業時間が夕刻までの商店が殆どで、背の高い建物や強い灯りを漏らす建物は殆ど無い。


外部から狙撃されにくいようにとこの場所が屯所に選ばれたそうだけれど、それは空が広く見えたり月や星が綺麗に見えたりするという別の面でも功を奏していた。



「あ、これお摘みです」



思い出したように差し出されたのは、タッパーから皿に移し変えられた団子だ。



『そっか、お月見だもんね。
チョイスはバッチリだよ』


「喜んで頂けて良かった!」



鈴ちゃんお手製の団子を頬張ると、もちもちとした食感と共に、控え目な甘さのみたらしの味が口に広がった。



やはり彼女は料理上手だ

店で出して金が取れると思う




暫く酒と肴を楽しんだ後、俺は鈴ちゃんを自分の脚の間に座らせた。


最初は「こんな体勢は恥ずかしい」と少し身を捩っていた彼女だけれど、後ろから優しく抱き締めると力を抜いて俺に背を預けてくれる。


そして、ゆったりとしたテンポで歌い始めた。




「どうか私の名を呼んで
 私も貴方の名を呼ぶから
 どうか私を抱き締めて
 私も貴方を抱き締めるから

 ああ、貴方が愛おしい
 そう感じている

 例え季節が移ろうと
 幾年月が流れようと
 ずっとこの心は変わらない
 この想いを歌に乗せよう

 どうか私の傍に居て
 私も貴方の傍に居るから
 どうか何処にも行かないで
 私も何処にも行かないから

 ああ、貴方を護りたい
 そう願っている

 例え世界が辛くとも
 数多の困難に遭おうとも
 ずっとこの心は変わらない
 この想いを歌に乗せよう

 ああ、貴方を愛してる
 この心も想いも、永久に…」





伴奏も何も無い、主旋律のみの歌。

甘くてちょっぴり切ない、ストレートな歌詞内容。


初めて聞くそれに、思わず笑みが零れた。



はっきりと胸の内を曝す事なんて滅多に無い彼女が、こんなにも解りやすく告げてくるなんて


そのくせ素直になり切れずに、言葉を歌にしているんだもの



『その歌、君が作ったんだよね?』


「えっと…はい…」



ほらね



「へ…変でしたか…?」



クスクス笑いの振動が伝わったのだろう、消え入りそうな声で恥ずかしげに尋ねてきた。


すこし勘違いさせてしまったようだ。


だから俺は腕の中の鈴ちゃんの顔を覗き込んで、自分の素直な気持ちを告げる。



『変なんかじゃないよ。
凄く嬉しい』



すると彼女は、花が綻ぶような笑顔を見せてくれた。





『‥‥‥‥‥、』


「‥‥‥‥‥、」




皓々と光り輝く満月。


その明かりが、俺達二人の空間を優しく彩る。




悪戯はよくするのに仕事に対してはやけに真面目で、男の子かと思う程活発で、時々口が悪くて案外素直じゃない所が有る、

料理も歌も上手な、笑顔の素敵なとっても可愛い俺の恋人。




これからも
ずっと大好きだよ、

鈴ちゃん。







〜終〜








──────────


後書き


拍手の方で「山崎との甘い話が読みたいな」とコメントが有りましたので、久しぶりに書いてみました。

だけどヒロイン役はまたまた鈴ちゃん。
後半はともかく前半の鈴ちゃんが恐い(笑)
暴言を吐かせてしまった。

でも良いんですよ、管理人的には。
本編では殆どキャラを活かせてないので(汗)

余談ですが、鈴の歌った歌の詩は、山崎だけでなく真選組の皆に対しての想いでもあります。
要するに彼女は彼らの事が大好きで、ずっと彼らと一緒に居られる事を望んでいるわけですね。


それでは皆様、これからも「Sans Souci!」を宜しくお願いします!

※作中の歌の詞は、私 雪輪がつくりました。


2012年9月1日





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