〜みんなの日常〜
□プレゼントには注意しろ
1ページ/1ページ
※本作では、ヒロインが隊士設定となっております。
――――――――――…
六月末…
毎日の様に雨が続くこの月、
「こんにちは。
お久し振りですね」
とある公園の東屋の下に座る、遊行僧姿の長髪の男の前に、帯刀した着流し姿の少年…いや、若い娘が現れた。
「あァ…お主か。
元気にしていたか?」
長髪の男…攘夷浪士の桂小太郎がそう尋ねると、男装娘…鈴はにこりと頬笑んで「はい」と答える。
そして何かを思い出したように巾着を探った。
「えっと…銀さんから聞いたんですけど、ヅラさん今月お誕生日ですよね?」
「ん? あァそうだが、俺はヅラさんじゃなくて桂だ」
「はい、プレゼントです。
クッキー焼いたんで、食べて下さい。
結構自信作なんですよ」
「‥‥‥‥‥‥。」
差し出されたその小袋を、若干警戒しながら見つめる桂。
無理もないだろう。
幾ら知り合いとは言え目の前の娘は真選組隊士であり、その仕事には攘夷派の取締まりも含まれているのだから。
「毒なんか入れてませんから。
…折角ですから一緒に食べましょうよ。
飲み物も奢ります」
しかし鈴はそんな彼を安心させるようにそう言い、自動販売機に走っていった。
──────────
────────
──────
「ふむ、本当に美味いな」
「良かったぁ、喜んで頂けて」
褒められて嬉しそうに顔を綻ばせる鈴。
連日の雨のせいで空気は快適とは言い難いが、その笑顔に桂の心はほんわりとなる。
「お主はきっと、良い嫁になれるぞ」
「そうですか?
だと良いんですけどねぇ」
「日本を改革させる俺が言っているのだから、そうに決まっている。
ま、鈴殿には悪いが、好みは人妻だから他を当たってくれよな。
はっはっはっは!」
「大丈夫です。
私も奇人変人には興味有りませんから」
高らかに笑う桂に、鈴は白い目を向け静かに溜め息をついた。
「あ。そう言えば、もう一つプレゼントが有るんだった」
「何! まだくれるのか?」
「ええ。だから手を出して下さい」
「分かった」
桂は左手を上に向け、鈴に差し出す。
次の瞬間、
―ガチャン
「ん?」
その手首に手錠が掛かった。
「え? え!?」
突然の事に混乱する桂。
その間に手錠のもう片方は、東屋の支柱に繋げられる。
「ちょっ!鈴殿!?
一体何をするのだ!」
「何って、真選組の仕事ですけど」
「お主今日は非番ではなかったのか!?」
「誰も非番だなんて言ってませんよ」
「しかし隊服を着ていないではないか!」
「ああ、訳有りで今日の巡察は私服なんです」
そう答えた鈴は、無線機能付きの携帯電話を取り出した。
「…こちら副長直属隊士海堂です。
かぶき町○×公園にて攘夷浪士の桂小太郎を捕縛しました。
早急にパトカー回して下さい」
「ちょっとォォォッ!?
どうしてそんな事をするのだ!?
さっきまで良い雰囲気だったではないか!!」
桂は悲痛な声を上げるが、鈴は耳に入っていないかのように、
「…ったくあのドS野郎勤務中だってのにまた姿眩ましやがって…
マジ面倒臭ぇよニコチン野郎に叱られんのは私もなんだぞ…
大体どうしてドS野郎の見張りも隊務の内に入ってんだよ…」
と、ぶつぶつ愚痴り始める。
「おいィィィィッッ!!
人の話を聞かぬかァァァッッ!!」
そして雨の公園には、可哀想な攘夷浪士の叫び声が再び響くのだった。
───────────
─────────
───────
その後の鈴と沖田の会話…
「あーあ。おめェがボヤボヤしてっから桂が逃げちまった」
「何他人に責任擦り付けてんだ。
あんたがバズーカぶっ放して、東屋を破壊したから逃げたんでしょうがよ」
「あ、そうだ。
クッキーまだ残ってるのかィ?」
「反省はしねぇのかよ…
まぁ良いや。
…クッキーって、万事屋さんに持っていくために作ったやつですよね?
それならまだ少しだけ残ってますよ」
「そりゃ良かった。
さっきクッキーに合うって評判の紅茶を買ってきたんでィ。
帰ったら一緒に飲もうぜィ」
「あぁ、それは良いですねぇ。
勿論溜まってる書類は自分でやって下さいよ」
「チッ」
「舌打ちすんなよ。
私を物で釣ろうたって、そう簡単にはいきませんからね」
〜終わり〜
【後書き】
桂さん、お誕生日おめでとう。
全然祝う内容じゃなかったけど。
沖田に落ち持ってかれてるけど。
取り敢えずボケキャラなのにツッコミさせてごめんなさい。
はい、と言う訳で、久し振りの桂さんでした。
鈴ちゃんが作ったクッキーは、桂のために作った物ではありません。
作中に有る通り、万事屋三人のための物です。
単に余ったやつを持ち歩いていただけです。
2012年6月14日(木)