〜短篇集〜

□幸福 〜しあわせ〜
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“特別警察真選組”


私はその組織唯一である、
女隊士。




主な仕事は事務作業や事情聴取など、屯所内でやれる事。


巡察には行けるけど、基本的には捕り物や潜入捜査には参加できない。



理由は、私が「女」だから。


局長である近藤さんや、副長である土方さんがそう決めた。




本音を言えば、私だってみんなと共に戦いたい。


女だからって特別扱いされるのも、正直少し口惜しい。



だけど文句は言わない。


何故ならば、そう決めたのは彼等が私の身を本気で案じ大切にしてくれているからで、
同時に仲間としてもちゃんと認めてくれていると、私自身知っているから。



それに私が「女」である事は、何をどうやっても覆せない。


女である以上、体力的にも腕力的にも男には劣る。


そんな私が前線に出れば、必ず足手纏いになる。


だから私は私にできる仕事をする。

それだって皆の役に立つ、大切な仕事だ。







ある日、沖田さんと山崎さんに尋ねられた。


「女だからって嘗められるのは嫌じゃないのか?」

と。



そう、敵からだけでなく、私が入隊する前から仲良くしていた隊士からも「女のクセに」と言われた事が有るのだ。



そりゃあ腹立つよ。

一人の剣士として認められていないと感じるから。


だけど嘗めたい奴は好きなだけ嘗めれば良い。

私はその「弱い女」に油断した隙を突き、打ち負かしてやるのみだ。


女には、女の戦い方がちゃんと有る。



ニカッと笑ってそう答えれば、二人もニカッと笑い返してくれた。







今日も彼らは「行って来ます」と、男だけで戦場に赴く。


私は「行ってらっしゃい」と、その背中を見送る。



「必ず帰って来るよ」

「必ず帰って来てね」



そんな言葉を交す事はないけれど、お互いにそう思っている事はちゃんと知っている。

心は通い合っている。




とは言えやっぱり、叶わないとは解っていても、

「いつ如何なるどんな時も、ずっと同じ目線で居たい」


時々そう思ってしまう。



追い掛けても追い掛けても、追い付く事ができない、常に私の前を行く彼等。


その背中をいつか見失ってしまいそうで、怖くなるのだ。




だけどそれでも、私は大丈夫。

彼等を見失う事は、きっと無い。



「ほら行くぞ」

「君もおいでよ」


たまにそうやって私を気に掛けるように振り返り、私が疲れた時にはゆっくり歩き、この小っぽけな手を取ってくれるから。




仮え肩を並べている事が常でなくとも、

頼りになるその背を眼にしていられる。

精悍なその横顔を見られる事もたまには有る。

共にこの道を歩める。



私は、それがとても嬉しくて、とても幸せなんだ。





〜fin〜






後書き



「自分の仕事に誇りを持っているけれど、本音を言えば皆と肩を並べていたい。でもそれは叶わない。とは言えそれでも幸せなんだ」

そんな複雑でちょっぴり切ない女隊士の心境を書いて見ました。


ちなみにこの独白文は本サイトのメイン「Be With You」のヒロインをイメージして書いたのですが、限られた隊務しか任されていない女隊士なら彼女でなくともこういった気持ちになるのでは?と思ったので、特に誰の独白でもない(誰と捕えてもらっても問題無い)です。


2012年8月1日:管理人、雪輪

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