〜短篇集〜

□真夏の讃歌
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2014年8月にpixivにアップしたものです。
角都の誕生日記念のお話。
それではお楽しみ下さいませ。







黄色、黄色、黄色…
真っ青な空の下、見渡す限りの鮮やかな黄色
日輪の花、向日葵の群れが陽光に煌めいている

そんな長閑な風景の中を、季節にも景色にもそぐわない朱雲模様の真っ黒な外套を纏った男二人が道を行く。
二人は忍の世を騒がすS級犯罪者集団、「暁」の構成員である。

薄灰色の頭巾を被り布で口も鼻も覆っている長身の男…角都は、周囲に神経を巡らせながらも強すぎる夏の陽射しを避けるように、下を向いて歩いていた。
一方、襟を鳩尾までだらしなく広げ赤い三刃の大鎌を背負った銀髪の男…飛段は、キョロキョロと辺りを見回しながら一定しない速度で前を進む。


「はぁ…」

角都は滴り落ちてくる汗を拭い、溜息をついた。
連日の暑さと相棒の戦闘を生業としている輩らしからぬ様に対して、である。
常時落ち着きが無いという訳でもなかったが、飛段はとにかく子供っぽいのだ。現に今も向日葵の花托を指でつついて揺らしたり、雲の形が蛸焼きみたいだと騒いだりしている。
昔は常に滝の忍たらんとし、里抜けした後も何十年と武人としての矜持は貫いている角都にとって、それは有る種の「異様」であり、不可解な事例だった。

「おい飛段、お前は普通に歩けないのか」
「はぁ? 別にオレ普通に歩いてんだろ」
「違う。あちこち余所見せずに歩けと言っているんだ」
「あーあーどうでも良いだろそんな事」
「それではいきなり敵襲に遭った場合、避けきれんだろう。この間だって、」
「角都、お説教なら後で聞いてやるから今は景色楽しめよなぁ。きれーだぜぇ?向日葵いっぱい咲いててよー」

飛段は注意の言葉を適当に受け流し、また何かを発見したのか先へ駆けて行く。
その様子に、角都は再び溜息をついた。そして後を追うために足を踏み出したその時である。

「角都。これオメーにやるよ」

早々に戻ってきた飛段が、白い手に握った黄色い花をずいっと差し出してきた。
鎌で刈り取ったのだろう、瑞々しい緑色の切り口はなめらかだ。

「なぜ…」
「だって大きくてきれーだから」
「……」

理由になっていない、しかも自分に花など持ってきてどうしようというんだ、一体何がしたいんだ。
そんな考えが頭の中でぐるぐると渦巻いたが、ひた、と己の目を見つめてくる葡萄酒色の瞳には逆らえず、気付けば花を受け取っていた。
飛段は満足気な表情を浮かべ、くるりと背を向け歩き出した。
しかし、何か様子がおかしい。躰が小刻みに震えている。
それを不審に思い、前に在る肩に手を掛けた瞬間だ。

「ふっ、ゲハハハハハっ!」

破裂したかのように飛段が大笑いし始めた。

「なんなんだ。いきなり」
「だって、角都に向日葵って…グフフっ、似合わねーからっ!」
「貴様、自分から持ってきておいて…!」

腹を抱えて笑い続ける飛段の背中と外套の隙間に、失礼な野郎だ、と角都は向日葵を差し込む。
すると飛段は、何すんだ!、と背を伸ばし文句を言ってきた。
しかし今度は角都が小さく噴き出す番だった。
飛段は、角都が笑うなんて珍しい物でも有るんだな、としか思っていないのだが、角都から見るとちょうど銀色の頭に花が咲いているように見えるのだ。
角都はそれを飛段に教えてやると、遂に堪えきれなくなり声を上げて笑い出した。
自分が笑われている事に気付き一瞬ムッとした飛段だったが、連れて可笑しくなり終いには相棒と一瞬になって笑った。


真っ青な夏空の下の、黄色い向日葵畑
そんな長閑な風景に似付かわしい、楽しげな声が響いている

とある葉月の十五日、角都の何十回目かの、生まれた日の事である




〜終〜






後書き

飛段は、この日が角都の誕生日である事をまだ知っていません。角都はこの事も有り、飛段の行動をすぐには受け入れる事ができなかったんです。
まぁ、最後に二人を笑わせたかっただけですけどね。
時系列的には、全作の飛段誕の小説の前の年で、角都はこの事を受けて飛段を花見につれて行ったというのが経緯です。(この年角都は飛段の誕生日を祝ってませんでした)

ちなみにプロットには、「情景描写を豊かに」とか、「鮮やかさ」などといったことが書かれてました。
だから第三者視点ですし、前作と違い「色」の数が多いです。
でもなんかこう、物足りんような…
うう…精進します…


で、関係は無いんですが、この話思い付いたのって、4月の中頃、ようは4カ月も前なんです。
4月末に激短なプロット(200字程度)を書いてから、(ちょいちょい直していたにせよ)8月14日の23時20分までほったらかしって…(;゚д゚)
でも休まず三時間で書けた事は自分でも久々に「やった!」って感じです(笑)
ってしょーもない話ですがね(^_^;)


ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!

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