〜みんなの日常〜

□何回やっても倒せない
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※本作では、ヒロインが隊士設定となっております。


季節的には九月頃





─────────…






「それじゃあ仕上がったら連絡するから、ちゃんと取りに来るんだよ」


『はい、ありがとうございます。

…まだ暑い日は続くそうなので、お体には気を付けて下さいね』


「おう。嬢ちゃんもな」




愛刀を磨ぎ師に預けた私は、ついでに買い物をするために、店の有る裏路地から商店街の方へと足を向けた。


しかし。



『‥‥‥‥‥。』


後つけられてるし…

面倒だなぁ


しょうが無い

買い物は諦めて屯所に戻るか




『‥‥‥‥‥。』



私を尾行している誰かは、私が歩みを速めれば速くついてきて、ゆっくり歩けばゆっくりついてくる。


こういう事をし慣れている人間だと思うんだけど、わざと気配を隠していないのだろう、強い圧迫感を感じる。



あ゙〜 苛々するなぁ!

ホンット誰なんだよ!
何が目的なんだよ!

来なら来るでさっさと来いっての!


…って、あ、私今刀無いんだったわ…


ま 良いや、確認しちゃえ!



そう思って後ろを振り向こうとすると、


『痛っ!』


頭に何か当たった。



『いきなり何すんだよ!
しかも空き缶で!』



今度こそ振り向いて、尾行してきた男に文句を吐く。


男は被っていた三度笠を上に押し上げ答えた。



「何すんだよって、それァお前さんがさっさとこっち向かねぇからだろォ?」


『なっ! お前は…!』



笠の下から現われた顔は、真選組でなくとも知られている。



「よォ。元気にやってたか?
女隊士の海堂鈴ちゃん」



鬼兵隊の高杉晋助だった。





『…何か御用ですか?』



私は近くに転がっていた竿竹を素早く拾い上げ、構える。


対して高杉は気にする風も無く、笑みを深めた。



「まァそんな殺気立つなって。
別にお前を殺りに来たわけでも攫いに来たわけでもねェんだから。
…穏便にいこうや」



穏便にって…

そんな事、


『私には関係有りませんよっ!』



間合いを詰め、竿竹で突きを放つ。



「オイオイ…
穏便にっつっただろ?
止してくれよ」


『いやだからこっちも関係無いって言いましたっ!
それに私には貴方を捕まえる義務が有るんですっ!』



突いても薙いでもその攻撃をひょいひょいと躱される。


そして、


『あっ…!』


遂には得物を取り上げられてしまった。



「随分と威勢が良いじゃねーか。

だが…」


『っ!?』

―ダンッ


「甘いな。テメーと相手との実力差も解らねェのかい?
蛮勇ってのは、己が身を滅ぼす事に繋がんだぜ?」



私の胸倉を掴み木塀に押し付けた高杉は、顔を近付けそう告げてきた。



…怖い



ニタリとした獣のようなその笑みに、夏の暑さからではない汗が滲み出てくる。


だけど黙っているのも悔しいので、精一杯睨みつけてやった。



『実力差くらい判りますよ。
ただ他の隊士に連絡しようとしてもこうやって邪魔されるだけですし、
かと言って逃してもくれないでしょう?』


「…フン、そこは判るんだな」


『ええ、私だって丸っきりの馬鹿という訳ではありませんからね…

で、もう一度お聞きしますけど、何か御用ですか?』


「用ねェ…道を歩いていたらお前を見付けたんで、声掛けただけなんだが…」



いや、嘘つくなよ

声掛けるどころか尾行してきたじゃねぇかよ



「強いて言えば勧誘、だな。

…真選組なんざ辞めて、鬼兵隊に入らねぇか?」



はぁ…

またその質問かよ…


『だから、拒否しますって前にもお伝えした筈ですが』


「そうかい…それァ残念だ」



残念で結構だよ

私は真選組でいたいんだから



「それはそうとして…」


『?』


「胸はもう少し大きい方が良いと思うんだがなァ」


『っ!?』



高杉の目線は、掴み上げたままの私の胸倉。


開襟仕様の夏用隊服の釦が取れ、下着に覆われた胸元が丸見えになっていた。



…って、


『私の胸の大きさなんてどうだって良いだろうが!』


「いや、重要だぜ?
俺は小さいのは好みじゃねェ」


『あんたの好みなんて知ったこっちゃないし小さいって言うなぁっ!!』


「何だァ?
一丁前に気にしてんのか」


『気にしてなけりゃこんなに怒んねーよ!!
それに少なくとも身体はもう出来上がってんだよバカぁぁっ!!』



私は高杉の腕を振り切り、そのまま殴り掛かる。



「っと、危ねェじゃねーか」


『知るかっ!!アンタが怒らせたんだろ!! 自業自得だっ!!』



叫びながらも拳を振るい、足でも攻撃を加える。


しかし奴はさっきの竿竹と同じように、その全てを躱したり受け止めたりする。


そして最後に大きく後ろへ飛び退き、口を三日月に曲げて言った。



「あーあ、これァ話出来る状態じゃねぇなァ」


『こっちは端っからそんな気無ぇし!!』


「そうかい。
それじゃァまたの機会にするよ」


『あっ! おい待てっ!!』



くるりと背を向けた高杉は、制止の声も無視して去っていく。



『くっそぉぉぉぉぉっっ!!
…こちら副長直属隊士海堂!!
副長直属隊士海堂!!
○○町××通り西にて鬼兵隊高杉晋助を発見!!
現在奴は東に向けて逃走中!!
至急応援を要請する!!』



私は携帯電話に向かってそう叫びながら、奴を追い掛けるのだった。






────────
──────
────






結局高杉には撒かれてしまい、捕縛は叶わなかった。



『あ゙あ゙ぁぁぁぁっ!!
ムカつくムカつくムカつくぅぅっっ!!』


「どうしたんだ?鈴ちゃん。
野郎を捕まえられなかったのがそんなに悔しいのか?」


『ん? あぁゴリ藤さんか…』


「いや俺ゴリ藤さんじゃなくて近藤さんだからね!!
なにゴリラと混ぜちゃってんの君!?」


『捕まえられなかったのもそうですけど…
もうっ!! どうだって良いじゃないですかぁ!!
ぅわぁぁぁぁぁんっ!!』


「えッ!? ちょッ、鈴ちゃんんんんんッ!?
無視しないでよ!! 何か有ったんならお父さんに話してごらんよォォォッ!!」




ゔゔぅぅぅッッ!!

アイツいつか絶対にぶん殴ってやるんだからぁッ!!



小さくも大きな決意を胸に秘めた、そんな夏の或る日の出来事。







〜終〜








後書き


あ〜 高杉さんが何だか変態っぽくなっちまったよ(笑)

だけど、取り敢えず書いていて楽しかったので、後悔はしてません(`・ω・´)ゝ

彼はどんなんであろうと、私の中ではかっこいい人です。


鈴ちゃんは割りと血気盛んな娘さんです。
普段は持ち前の我慢強さで押さえ込んでいるだけです(笑)

これからも頑張ってね、鈴ちゃん\(^O^)/←


ちなみに夏用隊服は、鈴だけに用意された特注品だったりします。



2012年6月3日(日)

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