宝物
□ウマシカ★トリオ
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夜桜月華の十夜さまから、拍手お礼に頂きました。
薄桜鬼の黎明録ネタです。
本編↓
ウマシカ★トリオ
「うおおおぉぉ!!!!」
早朝、俺はとんでもない雄叫びに叩き起こされた。
…出所は解る。八木邸からだ。
「アイツ等、また…」
前にも覚えのある状況に口元を引き吊らせて呟くと…嫌な予感がした。
いや、嫌な気配か?
「おい!犬っ!!」
予感は的中だ。
バンッという派手な音と共に声を張り上げて登場したのは、熊のような男。
「ああ、おはよーございます芹沢さん。健やかな朝ですねー」
その男、芹沢さんに向けるにはそれ相当の度胸がいる態度だが、叩き起こされて不機嫌なのは俺も同じなので敢えて挑発的な態度をとってみた。
が。
「……っ!!!!」
僅か数秒で後悔。
当然の事ながら、ずかずかと中へ入って来た芹沢さんからの見事な一撃により頭を抱える羽目になった。
武器が鉄扇だからとかそういう問題ではなく、この人の一撃は非常に痛い。
「…っんだよもう!!んな本気で殴らなくてもいいだろ!?」
だが痛さのあまり勢いでまた悪態をついてしまい、再び後悔。
「…痛!!!」
本日二発目の攻撃は、とにかく大打撃だった。
「さっさと向こうの馬鹿共を黙らせて来いこの能無しが!!」
もはや抵抗するのも辛いし、だるい。全く、仕方がない…。
「…ああ、解ったよ…」
俺が大人しく返事をして立ち上がると、芹沢さんはさっさと背中を向けて部屋を出て行った。
「全く、犬が!態度ばかりでかくなりおって!!」
そうやって一人悪態をつく声がしばらく聞こえていたが、とりあえず姿は見えなくなったので良しとしよう。
…だがとにかく、また殴られないように、今すぐ八木邸へ行くしかなさそうだ。
*八木邸へ行く
「うおおぉぉぉ待ちやがれ左之助ぇぇええ!!!!」
「馬鹿野郎誰が待つかぁあ!!」
だが、門の前まで来ると、それはもう酷かった。この雄叫びはただの騒音にとどまらない。
これは早いところ何とかしなければ、鉄扇で殴られるどころではなく俺の命が危うい。
そう思った俺はとにかく足早に声のする方へと急いだ。
そして声の出所、八木邸の庭に辿り着いた、その時。
「お前等いい加減に……!!」
「うおぉ!?危ね…っ!!」
顔を出すや否や声を荒げた俺の言葉は掻き消され…
「う…わぁぁあ゛!!」
一瞬の内に、視界が真っ暗になった。加えて、背中と後頭部には激痛、腕には冷たい土の感触があった。
そして
俺の上に、見覚えのある紅髪の男が、乗っていた。
「……りゅ…龍之介…?」
どうやら、全速力で突進して来たそいつと、正面衝突したらしい。
…いいから、俺が誰だか考える前に早くどけよ…!!
まさか、男に押し倒された状態のままで長くは居たくない。今すぐにでも投げ飛ばして拳の一つでもお見舞いしてやりたい。
のだが…思ったよりも背中への打撃が重かったようで、手足に力が入らない。
おまけに息苦しい。
これは、背中を強打したからだけではなく…こいつが乗っているせいだ!
「っ…どけよ…!」
息苦しさを堪えて何とか声にはしてみたが、そいつ…原田が慌てて身体を起こしたその直後
「つーかまーえたっ左之助くん★」
声の主である男の顔を思い浮かべるとあまりに気持ちの悪い台詞だったが、そう口にした男が原田の首根っこを掴みにやりと笑った。
「げ…っ新八!!」
捕らえられた方の原田は悔しそうに声をあげるが、俺としてはこいつを引き剥がしてくれてありがとうと言いたい。
だが
「お?何だ左之を捕まえたら龍之介までついて来たぞ」
人をおまけみたいに言うな!畜生、前言撤回だ。
「おいおい!何してんだよ!だ、大丈夫か!?龍之介!!」
そこへやって来たのは、この状況を見て一番に俺の身を案じてくれそうな奴。
「平助…助けてくれ…」
苦しく呟いてみると、そいつは慌てて俺に駆け寄り、何とか身体を起こしてくれた。
「ちょ、何があったんだよ?何か死にそうな顔してるぞ!?大丈夫か!?」
*…そんな顔してるか?
ああ、そうかもな。いきなり飛び出して来たでかい男に全力で突進されて地面に叩きつけられたんだからな。
自分が貧弱だなんて認めたくはないが、体格差を考えてもらわないと困る。
「痛……あー…くそ」
だがもう身体の至るところが痛くて状況を説明するのも面倒臭い。
「原田に…襲われた」
「え!!」
…とは言うものの適当に答えすぎたか。
目の前で青ざめた平助と
「おい…左之?」
原田の背後で口元を引き吊らせた永倉の視線が、とんでもなく冷ややかに原田を見つめていた。
「おいおい!!何だよその目は!!事故だよ事故!龍之介っ人聞き悪ぃこと言うなって…!!」
人聞き悪いか…確かに、よく考えてみれば在らぬ誤解を招き兼ねない発言だったかもしれないが、別に間違ってはいないだろう。
例え事故だとしても、俺は被害者だ。思わぬ襲撃を受けて死にかけたようなものだ。
実際、背中と同じく頭も強く打って意識が軽く遠退いた。
「んだよ…似たようなもんだろ…」
「いや違うだろ!!もっと違う言い方があるだろ!?」
全く、そんなたった一言だけで周りに在らぬ誤解を浮上させられるような人柄してるこいつが悪いんだ。
相手が俺でなく八木邸の奥さんだったら、もっと大変な事になっていただろう。
「日頃の行いが悪いんじゃないのか…?」
「あのなぁ龍之介…っ」
ああもう、今日は朝から散々だ。どうしてこうも痛い思いばかりさせられなきゃならない。俺が何をしたって言うんだ。
「ああもうっ…!とにかくお前等のせいで酷い目に遭ってんだよ!!朝からまた祭り騒ぎしやがって!!八つ当たりされる俺の身にもなれよ!!騒ぐなら俺と芹沢さんの居ない所でやってくれ!!!!」
全く、身体中が痛くてしんどいって言うのに、これだけの大声出させやがって…。
だが、ここまで言うとさすがに三人は表情を変えた。
「あ……悪い龍之介!!俺等のせいでまた…?」
俺の言っている状況を理解した平助が掌を合わせて頭を下げると、
「…あー…悪ぃ。ついな、はしゃぎ過ぎちまって。それから、突進しちまった事も、悪かった」
原田も当然、謝罪の言葉をくれた。
だが永倉だけは
「そうか、成程な…」
何やら考え事をするように腕を組み一人で呟いている。
*コイツら…まさか。
また、嫌な予感がした。そして
「よーし!!場所を変えて再戦だ野郎共!!」
予感、的中。
どうしたものか、こんな先読みばかりできるようになって、良い事なんて在るわけがない。
「龍之介!お前が次の鬼だ!」
「はぁぁぁあ!?何でだよ!!“俺と”芹沢さんの居ない所で、って言っただろ!?」
頼むから、俺を巻き込まないでくれ!!
「左之を捕まえたらお前がついてきたからな」
「だから!俺をおまけみたいに言うな!!」
「場所変えるって、どこ行くんだ?」
「おい原田!!何話に乗っかってんだよ!!」
「あ、俺良いところ知ってるぜ!」
「平助ー!!!!」
もう…何だってコイツ等、こんなに体力有り余ってるんだよ。そういう体力は世の為人の為、京の治安の為に残しておけよ!
「ていうか、肝心の子供が居ないじゃないかっ八木邸の子供はどうした!」
「勇坊?なら今日は不参加だぜ?」
「はぁぁぁあ!?子供無しの鬼ごっこって何だよ平助!!何してんだよお前等!!」
ただの馬鹿じゃないか!!
…いや、どうしようもない馬鹿だな!
朝っぱらから大人の男三人で『鬼ごっこ』をするこいつ等って本当……馬鹿だ。
溜め息が出る。
本当に不貞浪士の取り締まりなんてしてるのか?いやもうお前等が取り締まってもらえ!!
「……俺ちょっと近藤さんと話つけてくるわ…」
「よし行くぞ龍之介!これも体力作りの一貫だ!」
「お前等にそれ以上の体力いらないだろ!!離せよ永倉ぁ!!…っちょ……近藤さーん!!!!」
見てくれ芹沢さん!俺は身を呈して此処を静かにしてやったぞ!後で礼の一つでもしてもらうからな!?
…なんて、望みはないか。
ああもう……この先俺の人生に、平穏は訪れるのだろうか―…。
〜終〜