幸せのカタチU

□第三十六話
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 何かが風を切る音と自分の身体が解放されて地面に崩れ落ちるのは粗同時だった。

 座り込んだ床の上で漸く自分の意思で動くようになった身体を抱きしめる。



 「ボールの使用方法間違えてないかい?」

 「すみません、つい……カッとなって」

 「随分と怖い顔をしているね」



 聞こえてきた声にギクッと身体が震える。

 どうして、何で、よりにもよって貴方がくるの?

 近づいてくる足音に涙が溢れる。

 肩を抱かれて温もりを感じると安堵する。

 涙で滲んだ視界の中に、優しく微笑む幸村が見えた瞬間、無意識にその手を握った。


 「彼女に今、何をしていたんです?」

 「何って挨拶のキスだよ」

 「ふざけないで下さい」

 「別に、ふざけてなんかないよ」



 そう似非神が笑った瞬間、幸村が立ち上がった為に慌てて背中に抱きつき止める。

 顔は見えないけど幸村が今怒っている事はわかる。

 幸村の肩越しに似非神を見れば実に楽しそうに笑っている。



 「家族の挨拶だよ、ねぇ優美そうだろ?」

 「えっ……そうなのかい?」


 驚いたようにこちらを振り返る幸村。

 冗談ではない、私の家族は向こうの世界の家族だけだ。

 こんなヤツを家族なんて認めない。



 「初めまして、俺の名前は【神野光】だ、優美の後見人だよ」

 「!?」


 似非神の自己紹介に言葉を無くす幸村。

 思わず視線を逸らして手を強く握り締める。

 似非神は手の上で起用にボールを遊ばせながらニヤリと笑った。

 綺麗でゾッとするその笑い方が本当に嫌いだ。


 「海外生活が長くてね、癖でしてしまったよ。驚かせてすまないね優美」



 悪いなんてこれっぽっちも思っていない言葉だけの謝罪。

 楽しそうにクスクスと笑う声が腹立たしい。



 「用ならもう済んだでしょ………さっさと帰ってッ」

 「クスクス、随分と嫌われてしまったようだね」



 そう言って笑いながら似非神は私の隣を通り過ぎる。

 その時頭に響いた言葉に私はコレまで溜めてきたものがプツリと切れる音を聞いたきがした。



 『お前がどんなに拒絶してもこの世界じゃあ、家族は俺一人だけだ。どんなにお前が望んでも本当の家族なんて存在しないんだよ』



 似非神が教室から出て行った瞬間に一気に力が抜けて倒れそうになるのを幸村が慌てて支えてくれた。

 言われた言葉が、突きつけられた現実が、どんなに抵抗しても拒絶しても変えられない現実が堪らなく不快で感情が抑えられない。



 「優美、さっきの人は本当に君の?」

 「あんなヤツ大嫌いッ!あんなヤツ家族なんかじゃない!あんなヤツっ!」

 「優美!?落ち着いて!」

 「私の家族はッ!私の家族はお父さん達だけだもの!!あんなヤツじゃないっ!!」

 「優美!」

 「違う!違うッ!!違ッ……」



 ギュッと強く抱きしめられる。

 あふれ出た感情を自分でもどうしようもなくなっているのを幸村は背中を優しく撫でて落ち着かせてくる。

 子供のように嫌だと違うを繰り返す私に相槌をうちながら優しい言葉をかけてくれた。

 だから余計に涙が止まらなかった。
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