幸せのカタチU
□第三十七話
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「藤原先輩ってエロイ身体なんスか?」
「ブーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!」
全ての始まりは切原の言ったこの一言からだった。
たった一言で部活後の部室内を凍りつかせた。
ハードな練習を終えて着替えをしていたレギュラー全員は突然の事に動きを止める。
「赤っおまっ何っはぁ!?」
「何言ってるかわかんないッス丸井先輩」
「おいおい、いきなりどうした赤也?」
「それがさ、部活に来る前に隣のクラスのヤツがウチの学校で良いと思う女子の話してて、顔が良い女子の話から何時の間にかスタイルがどうとかって話になって、そしたら藤原先輩の名前が出てきて」
「なんちゅー話してやがんだ!死にたいのかそいつ等!?」
「へ?」
「へぇー随分面白そうな話をしてる一年がいるんだなぁ、ねぇ赤也」
「はっはぃぃぃぃ!」
何時の間にか背後に立っていた幸村に全快の笑顔で詰め寄られて思わず声が裏返る。
話を聞いていた丸井とジャッカルは素早く切原から距離をとる。
切原の肩がポンッと軽く叩かれたと思うと乗せられた手がギリギリと強く肩を掴んだ。
この人なんでこんな見た目でこんなに握力あるんだよ!?なんて涙目になりながら思うと更に強く掴まれる。
「一体何処の誰がそんな話をしていたか是非教えて欲しいなぁ」
「C組の田辺達です!!!!!!」
あまりの迫力に泣きそうになりながらもアッサリと犯人達の名前を保身の為に言う。
ゆっくりと肩から手が離れるとホッと一息つく。
「エロイ身体・・・・確かにそうかもしれんのぉ」
「にっ仁王君!貴方はなんて事を!!??」
「事実じゃし、なんじゃ?柳生はそうは思わんのか?」
「そんな事を言ってるんじゃありません!!そんな話は女性に対して失礼だと私は言ってるいるのですよ!!」
「別に本人に向かって言ってる訳じゃないし、個人的な意見じゃ」
「ですが!」
「幸村はどう思うんじゃ?」
「えっ?」
仁王に唐突に話題を振られて、脳内でそんな話をしていた一年をどうするか考えていた幸村はいきなりのことに言葉を詰まらせる。
言われて頭に浮かんだのは愛しいと生まれて初めて感じた少女の姿。
まるで瞬間湯沸かし器の如く顔が真っ赤になる。
そんな幸村の反応にまたも部室内はフリーズする。
「きっ貴様等!!なんと言う破廉恥な話をしとるか!!!たるんどる!!」
「弦一郎、これを使え。鼻血を出しながら言っても説得力にかける」
「くっ!」
「スゲー事を想像して出た鼻血なのか、ただこの話題を聞いただけで興奮して純情なあまりに出た鼻血なのか・・・どっちだろぃ?」
「明らかに後者だろ?」
「いやいや、意外に」
「丸井!ジャッカル!!貴様等!!」
「ちょっと弦一郎五月蝿い」
「せっ精市!?」
幸村に睨まれて柳から渡されたハンカチで鼻を押さえて座り込む。
なんとも可哀想な姿に柳は同情の眼差しを送る。
「たまに・・・・」
「?」
「アイツはたまに驚くくらい色気がある時がある」
「あー・・・・わかる気がする」
藤原優美、自分達と同じ中学二年生。
顔は普通でスタイルだって特に凄く良いと言う訳でもない。
なのに、不意に見せる表情や仕草が色っぽい時がある。
それは別に本人が意識してやっている訳ではないようで更にたちが悪い。
「キスは確かにもの凄かったッス」
「「「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」」
「馬鹿、赤也!!!」
「あっ」
ウッカリ呟いたその言葉は静かになった部室にやけに大きく響いた。
全員が絶句し、驚愕の表情で問題発言をした切原を見つめる。
「ほー・・・・随分良い経験をしたようじゃのう、詳しく聞かせてもらたいもんじゃ」
「そうだね、なんだかジャッカルも知ってるようだし??教えてくれるかな???」
「「!!!!???」」
まさに蛇に睨まれた蛙状態。
超笑顔な二人に詰め寄られた切原とジャッカルは悲鳴を上げる事も出来ず後退する。
それは春先にあった出来事(本編三話参照)。
本人から口止めされているし、もし話したら同じ目に合わされると言うことで今まで記憶の中から消去していたような事だった。
ウッカリにも程があると涙目で怯えている後輩にジャッカルはゲンナリとする。
完璧にとばっちりだ。
「じっ事故でたまたま」
「事故でたまたまぶつかってキスした位じゃ、上手い下手はわからんぜよジャッカル」
「ヒィィィ」
「何でそんな事になったのか詳しく説明しろよ赤也?」
「はぃぃぃっ!!」
そして、怯えながらも事情を説明し終えた瞬間、ドカンッと大きな音が響く。
切原の顔の真横にはロッカーをへこませた幸村の拳。
「以後注意しなよ?」
「はい!!!!!すいませんっしたーーー!!!」
もはや涙目どころか泣いてる。
心中穏やかでいられないのは仁王と幸村だ。
今にも突き動かされそうな衝動に駆られそうになる程、イライラとムカムカが渦巻く。
彼女はどうしてこうも自分達を翻弄するのだろうか。
自分達にとっては解らないかもしれないが勇気のいるアピールなのに、彼女は事も無げにアッサリとやってのけているように思える。
それが何だが自分達とは違うのだと経験の差のようなものを見せ付けられたようで。
その経験も誰としてきたのか想像できて余計にイラつく。
「暴れるならココではやめろ、外に行って打ち合ってきたらどうだ?」
「仁王」
「了解じゃ」
着替えるのをやめてラケットを持ちすぐさま部室から出て行く。
先程までくたくただったのが嘘のようだ。
二人がいなくなった部室内ではまるで緊張の糸が切れたように全員が息を吐き出した。
「こっ殺されるかとっ、おもっ、思ったッス!!!!」
「馬鹿野郎!!それはこっちの台詞だ赤也!!」
「すんませんっしたー!!!!」
「お前幸村達だけですむと思うなよ?」
「へ?」
「へ?じゃねーだろが!あれだけ藤原に口止めされた事をアッサリ言いやがって、俺は知らないぞ」
「そんなっ!助けて下さいよジャッカル先輩!」
「嫌だ!!誰がそんな恐ろしい事に関わるかよ」
あの時の彼女の迫力は先程の幸村の非じゃなかったように思える。
これ以上巻き込まれるのはゴメンである。
「それにしても、そっそんなに藤原ってキス上手かったのか?」
「なっ丸井!貴様何を言ってる!?」
「上手いなんてもんじゃないっスよ!俺腰が抜けたくらいですよ!」
「すげー・・・・」
「赤也!」
顔真っ赤にして怒鳴っている真田を無視して丸井と切原は盛り上がる。
その頃、外では。
「なんでああも無防備なんだと思う?」
「危機感が無さすぎるんじゃ!」
「何処から来るんだろうねあの余裕!」
「サラッとかわすし」
口から出るのは不満しかない。
お互いに思っている不満を言い合いながら激しいラリーを続けている。
もっともっと誰よりも彼女に近づきたい。
触れたい、触れられたいそう思うのに。
「もっとこっちの身にもなって欲しい!!」
「同感じゃっ!」
知らぬは本人ばかりかな。
一度ついた炎は暫く治まる事はなかった。
To Be Continued