幸せのカタチU
□第三十九話
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『今日、デートしない?』
「は?」
それは、学園祭の翌日の朝の出来事だった。
以前作った弁当を気に入った跡部に頼まれて、仕方なく早起きして弁当を作り学校に行く跡部を見送った後、のんびりシャワーを浴びて出た時に掛かってきた電話。
表示されていたのは幸村の名前。
何かあったのかと慌てて出てみれば爽やかな感じにそう誘われた。
一瞬間抜けな反応をしてしまったのは仕方がないと思う。
それは余りに唐突で、頭が上手く働かない。
「えっと、精市君あの」
『ん?』
「そのっ……それは、何かの冗談とか、罰ゲーム的な何かでしょうか?」
むしろ、そうであってほしい。
『え?俺がそんな事する人間だと思う?』
「いえ、思いません」
『クスクス、それで……どうかな?何か予定あったりする?』
「と、特には」
『それじゃあ、改めて、俺とデートしてくれませんか?』
「えっあ、……よっ喜んで?」
『良かった!』
電話の向こうの彼がらしくもなく余りに不安そうな声でそうんな事を言うものだから、思わず了承してしまった。
どうしたんだろう本当に。
彼らしくてない、そう思った。
悩んでいても仕方がない。
約束の時間まで一時間、慌てて支度をする事にした。
どんな格好をしていけばいいのかサッパリわからず、派手すぎない格好にした。
少し早めに待ち合わせ場所に行けば既に周囲の注目を集めている神の子がそこにいた。
やばい、めちゃくちゃカッコイイ。
この世界にきてもう何度このフレーズを口にした事だろう。
だけど、声を大にして言いたい!本当に中学生か!?
遠目からでも分かる。
足長い、スタイル良い、顔小さい、文句なしのイケメンだわ。
駅前と言う事もあり人通りが多いせいかもしれないが、通り過ぎる女子は一度は振り返り彼を見ているように思える。
そして、今まさに女子大生らしきグループが彼に声をかけている。
跡部で慣れてはいるけど、何度みても逆ナンは凄い。
女の子のパワー半端ない。
どうしようかと迷っていると、困ったように女子大生を相手にしていた幸村がこちらに気がついた。
見つかったと思ったその瞬間、花が咲いたような綺麗な微笑みを浮かべる。
これには逆ナンしていたお姉様方も思わず赤面して固まっている。
向けられた私も同様に固まっていた。
「すみません、彼女が来たみたいなのでこれで失礼します」
そう言ってこちらに駆け寄ってきた幸村に慌ててお詫びを入れれば笑って頭をポンポンとされた。
やばい、本気でカッコイイ。
「その格好似合ってる、可愛い」
「かわっ!?ないない、さっきのお姉さん達のほうがよっぽど可愛かったでしょ!?」
「え?そうかな?俺には優美の方が比べる間もなく可愛く見えたけど」
やっぱり跡部といい、幸村といい、みんな目が腐っていると思う。
絶対に有り得ない。
美形って何処か美的センスみたいなものが死んでるのでは?と疑いたくなる。
「それより、何処か行きたい所あるかい?」
「特には」
「そう、なら植物園とかどうかな?興味ないなら映画とかでもいいけど」
「いいよ、植物園。見たい映画とかもないし植物園にしよ?」
「うん、なら行こうか」
そう言って自然に握られてる手。
思わずその手を見つめてしまうけど、振りほどく事なんて出来なくて恥ずかしいけどそのまま行く事になった。
到着した植物園は平日ということもあり人が少なくてとても静かな場所だった。
ゆっくりと園内を回りながら花を見ている幸村へと視線を向ける。
学園祭は終わった、もうすぐその時がやってくる。
それが何時なのか正確な日にちがわからない為、怖くなる。
こんな風に元気に笑っている幸村を見ていると、そんな時は来ないのではないか?と思うのに、そう思い切れない。
物語は進む、私がいる事で彼等の未来は変わっていないと似非神は言っていた。
と言うことは、遅からずその時はやってくる。
「優美?」
「えっ!?」
「どうかした?何だか暗い顔していたけど」
「そっそんなことないよ!」
「そう?もしかして植物園退屈だったかな?」
「そんなことない!ごめんなさい、ちょっと色々考え込んでた」
「それならいいけど」
考えてもどうにもならないと分かっている。
それでも、考えずにはいられないのは何故なのか自分でもわからない。
このままでは良くないと、そのことを考えないようにした。
「あれ?」
「どうかした?」
「いや、今日は一日晴れ予報だったんだけど」
「え?あ、なんか雲行き怪しいね」
植物園から出れば、入る前は晴天だったのに出る頃にはそれが嘘のように空はどんより空。
これは一雨来そうだと思っていればポツポツと振り出す雨。
雨脚はドンドン激しくなり、ずぶ濡れのまま入れる店はなく仕方なく一番近いからと言う理由で幸村の家に行くことになった。
始めは断ろうと思っていたのに、まだ一緒にいたいとか言われればそれも出来なくて仕方なく初幸村宅訪問となった。
妹も喜ぶと言われて向かった家。
緊張しながら中に入れば静まり返っている室内。
「あれ?優美ちょっと待ってて、タオルとか持ってくるから」
「うっうん」
バタバタと小走りに入っていき戻ってきた幸村からタオルを受け取り始めて靴を脱ぎ家の中にあがった。
「ちょっと電話するから待ってて」
「あっうん、お構いなく」
「クスクス、緊張してる?」
「しっしてませんっ!」
「クスクス、あ、もしもし母さん?今何処にいるの?」
私の反応を見て楽しそうにしていた幸村が電話していた相手は母親らしい。
なんだか幸村家の中で普段見れない幸村を見て少し、否、かなり感動している自分がいた。
こんな姿きっと見る事なんて早々ないだろう。
自宅にいる時はこんな感じなんだなぁと見ていると電話を終えた幸村が少し困った様子でこちらを見た。
「どうかしたの?」
「それが、親戚が事故で病院に運ばれたらしくて両親と妹と祖母で急遽向かったらしいんだけど」
「ええ!?大丈夫なの?」
「ケガ事態はそんな対したことなかったらしいんだけど、今日はあっちに泊まって帰るらしいんだ」
「そうなんだ」
「うん」
あれ?それならどうして彼はこんな困った顔をしているんだろうか?
不思議に見ていれば幸村は苦笑した。
「そのままじゃあ風邪を引くよ、着替え俺ので悪いけど用意するから先にシャワー使って?」
「ええ!!いいよ、私よりも精市君がッ」
「駄目、優美が先」
「あっはい」
有無を言わせないその言葉に情けないけど頷くしか出来なかった。
本当は体調を気をつけないといけないのは幸村なのにと言いたいけど、そこで押し問答しても時間が無駄に過ぎるだけで余計悪い気がしてならばと手早く終わらせようとバスルームに向かった。
他人の家でまさかシャワーを浴びるなんて考えもしなかった。
少し熱めのシャワーを浴びてバスルームを出れば置かれてあったタオルと幸村の服。
これを着るのかと迷いながらも袖を通すとやはりでかい。
鏡をチラッとみれば彼シャツの自分の姿。
恥ずかしすぎる!!!
何を考えているんだと自分を叱咤して案内された幸村の部屋のドアをノックする。