幸せのカタチU
□第四十話
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電気の消えた室内はとても静かで、外の雨の音がよく聞こえた。
自分を組していている幸村の視線が怖くて、覚悟を決めて話をしている筈なのに視線を合わせる事が出来ない。
全てを話し終えた後の沈黙が痛い。
「………私と景吾の関係はそんなモノなの」
互いの孤独を慰めあうだけの関係、始めはそれだけだった。
否、それだけのつもりで、その時限りのつもりだった。
だけど、結局自分の中の孤独感は一向に消えず未だ自分は跡部との関係を切れていない。
それが自分のズルさだと痛感しているからこそ、怖くて堪らない。
自分でもよくわかっている。
最低な人間だと。
だけど、それを幸村に言われたくないと思う自分に嫌気がさす。
「………軽蔑したでしょ?」
「………正直」
「ッ」
「正直、少なからず引いて、俺は君の事を或いは諦められるかもって考えてた」
「………うん」
「だけど」
「?」
そっと頬に触れられ驚いて視線を幸村に向けて言葉を失う。
切なそうな愛おしそうな、そんな目でこちらを見つめる幸村に困惑する。
そんな目で見られるような人間じゃないのは自分でも嫌と言うほど理解している、なのにどうして?
「困ったね、俺はやっぱり君の事がもう自分でも止められないくらい好きみたいだ」
「なっ……なんで!?どうして!?」
「どうして?うーん……どうしてだろう?」
「間違いだよ!……そんなの有り得ないッ」
こんなにズルくて汚い自分に、どうして幸村が好意を抱いてくれるのか理解出来ない。
自分だったらこんな女、絶対にごめんである。
もっと年相応で、純粋で、綺麗な子を選ぶ。
こんな、自分の事ばかり考えて子供だと思っている相手の好意を利用する時だけ利用して、そのくせその手を取ることもしないで、近づく事を拒絶する。
それなのに、自らは絶対に離れようとしない。
どんなに考えても、好かれる要素がまったく見つからない。
「優美は本当に泣き虫だね」
「!?」
「何て言うのかな?跡部との事は……正直、君から話を聞かなくてもある程度予想はしていたよ、あの君の家で焼肉をした時から」
「えっ!?」
「だからかな、君達の関係を聞いても自分で予想していた以上にまったく平気だった」
「そんなッ」
「引くとか、嫌うとか、そんな事はまったく考えなかったなぁ、どちらかと言うと………跡部に足して物凄い嫉妬している」
「!?」
「こんな事言っても仕方が無いってわかっているんだけど……その時に、傍にいたのが自分だったら良かったのにって思うよ」
流れ落ちる涙を拭われる。
優しい目で微笑む幸村。
もうそんな顔は見ることないと思ってた。
そんな資格ないって。
「だから優美」
「………」
「間違いなんて言わないで?」
「ッ!!」
そう言って幸村は触れるだけのキスをしてきた。
一度離れて再度重なる。
今度は深く、角度を変えて何度も何度も。
息苦しい、だけど、離れがたい。
何も解決なんてしていない。
跡部との関係を打ち明けただけで、自分がその気持ちに未だ答えられないのは変わらない。
それなのに、この手を手放したくないと思ってしまう。
「ハァハァ……ンッ……」
「まだッ」
「ンンッ」
再び重なる唇。
互いの舌が口腔内で絡まる。
クチャチクャとリップ音をたてながらゾクゾクッとする感覚に甘い吐息が漏れる。
離れていく時に引いた糸のようなそれは薄暗い室内に慣れた目には見えた。
そっと首筋に口を寄せてきた幸村が笑う。
その時に感じた微かな息にすら身体がビクッと反応する。
「優美から俺と同じ匂いがする」
「はぁはぁ……ぁ……」
「もっと、俺色に染まればいいのに」
そう言ってしっかりと握られる手。
その温もりと時折告げられる告白がとても切なくて涙が何時までも止まらなかった。
To Be Continued