幸せのカタチU

□第三十四話
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 「何か言うことは?」

 机の上に並べた衣装の前に立ち、目の前で驚愕に目を見開いているクラスメートを見つめた。

 昨晩、跡部が電話で頼んだ衣装は朝食を食べている頃に綺麗にそして完璧に仕上げられ届けられた。

 まさか一人で衣装を完成させられる訳がないと思っていただろう彼女達は本当に驚いているようで言葉も言えていない。

 「さすがに、お礼も無くこれを着ようって言うなら私も我慢が出来ないので裏方に回った方々に代打頼んで接客に回ってもらうようにしてますが、どうしますか?」

 「なっ、そんな勝手な事っ」

 「勝手?勝手って意味ちゃんと理解して使っていますか?こちらの提案を退けて自主制作にしたのに出来ないと放り出し、手伝いもしなかった人がそんな事を言うのですか?」

 「そっそれは」

 「テニス部の面々も様子を見に来ると言っていたので混雑が予想されます、返事くらい早くして頂けませんか?」


 学園祭は自分達の手で作り上げるもの、なのに関係ない人間の手を借りる羽目になった事は本当に不服である。

 流石に大人しくしていられる程、大人でも人間が出来ている訳でもない。

 本来なら私にではなく跡部に謝罪させたい所。


 謝るのは嫌って感じの顔をして何時までもモジモジしている彼女達にイライラしてテニス部の名前を出せば先ほどまでの嫌々が嘘のように素直に謝って来られた。

 心のこもっていない謝罪なんて意味もないのだけど、それでも私は、彼女達の謝罪の言葉が無い限りはこの衣装を渡す気はなかった。

 衣装を持って着替えに行く彼女達を見送った後、こちらを悔しそうに見ている仲原さん。


 ごめんなさい、私、どんな苛めも気にしないけど………。

 「人に使われるのって死ぬほど嫌いなんです、私」

 「ッ」

 「思い通りにならなくてごめんなさい」


 それだけ言って私は空き教室を後にした。
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