恋物語
□第三話 朝の挨拶
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朝、目が覚めて視界に入るのは元いた自分の世界の自室の天井でも、この世界に来て住んでいたあのマンションの天井もなく、未だ慣れない大阪にある現私の自室である部屋の天井。
気だるい身体を起こして、ベットから降りる。カーテンを開けば外には大阪の街並みが広がっていた。
ずっと夢見てきた世界、だけど、こうしてココから見ると本当は全部が夢だったらいいのにと改めて思う。
ココには幸村はいない。
大切で大好きで唯一の人だと想って来た人が、ココにはいない。
世界がたったそれだけのことで、色あせて見える。
ねぇ、わたしはどうしてココにいるのだろう?
朝食と着替えを手早く済ませる。
何となくかけたテレビでは、朝のニュースが終わり今日の占いなんてものが流れているが、特にそれを気にする事なく自分の星座の順位が出る前にテレビを切ってしまう。
朝食を作るついでに作った弁当を鞄に入れて、漸く慣れてきた四天宝寺中へ行くために自宅を後にした。
神奈川にいた頃は、今よりももっと早くに起きて、幸村の朝練に合わせて早く家を出て待ち合わせをしていたバス停までよく走った。
時間に余裕を持って早めに出ていると言うのに、何時も気が急って走ってバス停に向かった。
先についた時は待っている時間にずっとドキドキして、逆に待ってもらっている時はその姿が視界に入っただけで胸が高鳴った。
毎日が、本当に毎日が幸せだった。
同じ時間、今頃彼は何をしているだろう?
私はどうして貴方のいないこの世界に未だに残っているの?
そんな事を考えているうちについた学校の正門、別名『掴みの正門』では現実世界でも立海でも有り得なかった光景が広がる。
生徒の殆どが漫才などをしながら通って行くのを見た時は本気で別の入り口を探したほどだ。
それでも、絶対に慣れないと思っていたそんな光景も一週間も見続ければ驚かなくなり動じもしなくなった。
既に早くから来て部活をしている運動部の姿が目に入る。
自然と視線が向かうのは………。
「あ、藤原さん!おはよう!」
「えっ?」
見慣れたユニフォームを身にまといタオルで汗を拭きながら声をかけてきたのは白石だった。
彼が現れた事に周辺の女子がキャーキャー言っている。
何をしていても絵になる。
遠めで彼を見つめている多くの女子達を見て、やっぱり彼も凄くモテるのだと再確認。
早く忘れたいのに、白石は本当にいちいち私に幸村を思い出させるんだ。
「おっおはよう……」
「何時もこんな早く学校に来るん?」
「…………だいたいこんな時間かな?」
「へー、俺はテニス部やから朝練でさ」
真っ直ぐに彼を見られない、見たくない。
彼は幸村じゃない、だけど、駄目なのだ。
私はまだ、彼を過去にする事も忘れる事も出来ていないのだから。
「ごめんなさい、そろそろ教室に行くから」
「おっおん、呼び止めてごめんな?」
「別に……気にしていないから」
「そっか……」
白石に背を向けてそのまま教室に行こうと思って動こうとしたけど、不意に考える。
転校生である自分に気を使って声かけてくれたのかもしれない。
幸村のことがあるにしろ、そんな白石にこの態度はあんまりだろうかと。
だから……。
「しっ白石君!」
「ん?どうした?」
「部活」
「??」
「がっ頑張って下さい、そっそれだけです、それじゃあ!」
「あっ!」
どうしよう、まともにちゃんと顔を見て話せなかった。
言葉が上手く紡げない。
それが凄く恥ずかしくて私は今度こそ教室へと走った。
走り去る後姿を見送りながら、先程彼女が言った言葉が頭の中を反芻する。
『がっ頑張って下さい』
そう言った彼女の顔はとても顔が真っ赤だった。
恥かしそうに、だけど必死にそれだけ言うと逃げるように走り去っていった。
なんだろう、この胸に湧き上がる気持ちは。
「白石どないした?そんな所でボーっとして」
「っ!あ、なんや謙也か」
「なんやとはなんや!」
「はぁ………」
再度視線を彼女の向かった先へと向けるが既にそこに彼女の姿はない。
ドクンッドクンッと脈打つ鼓動。
これは何だ?今まで感じた事のない感覚。
まだ彼女の事を自分は何も知らない、なのに、気になる。
To Be Continued