恋物語

□第五話
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 「あんな?確かにマネージャーに勧誘せいとは言うたで?んで、ちゃんと勧誘成功した事は実に素晴らしい事やと心から褒めたる!!偉い!!凄い!!ようやった!!1こけしやる!!」

 「おお、やったー」

 「だかしかしや!!!」

 「うるさっ、なんやねん急に大きい声出して?」

 「いや、最初っからずっと五月蝿いやろ?」

 「シャラ−−−−−−−ップ!!」




 バンッと音を立てて机を叩いた監督に部室にいた全員が注目する。

 ずいっと白石の前まで来た監督はグイッとその頭を掴む。



 「勧誘しろとは言うたが!!誰も彼女にせいとは言うてへん!!!!!!」

 「「「「「「彼女!?」」」」」」」




 ガダッと全員が白石を見る。

 机の上に置かれた入部届けには綺麗な字でハッキリと彼女である、藤原優美の名前が書かれている。

 昨日、それを記入している時に横にいたし、監督に一緒に提出に行ったからソレがココにあるのは何ら不思議でも何でもないのだが、こうして実際に監督の口から勧誘成功と言われると実感してくる。


 「入部届けを婚姻届けみたいに持ってきてやがって!!」

 「なっ!そんなんちゃいますわ!!」

 「やかましい!!」


 そう言って羨ましそうに白石の肩を揺らしている時だった。

 部室のドアを遠慮がちにノックする音が響く。

 先程のまで騒がしかった部室が一瞬で静かになる。

 入り口近くに立っていた石田がそっとドアを開ければマネージャー用のジャージに着替えた彼女がいた。



 「あの、着替えてきました……けど……」



 そう言われた言葉に真っ先に反応したのは監督だった。

 色々教えるからと彼女と一緒に部室から出て行く。

 その瞬間、全員が白石を取り囲む。



 「白石お前!!彼女ってどう言う事や!?」

 「せやで蔵リン説明してや!!」

 「蔵リンやめぇ!説明って言うてもなぁ……その、昨日から付き合いだしてん」

 「せやから!!何でやって聞いてのや!お前全然興味なさそうやったやんけ!」



 何故と聞かれて考えるのは昨日の保健室での事。

 泣いている彼女の顔は今でも思い出すだけで胸が痛くなる。

 人にハッキリ言える理由ではない事はわかっているけれど、それでも隠す気にはなれなかった。



 「なんでと言われても、すっ……好きやからに決まってんやろ!」

 「すっ、好きって、お前、そんな突然」

 「誰かを好きになるんはそんなもんやろ、もうええやろ?部活の開始時間やで?」


 それだけ言うとまだ納得していない忍足達を置いて部室から出る。

 部室の外に出て深いため息をつけば一通り監督から説明を受けた彼女が戻ってくる。



 「あ、藤原さん。どう?やっていけそう?」

 「うん、何とか私でも出来そうかな、それより……皆に話たんだね、私達のこと」

 「おん、あ!嫌やった?」

 「ううん、違うの。その……こんな風にオープンにしたお付き合い初めてだから少し……その、照れ臭い」

 「前は違ったん?」

 「え?」

 「あ、いや」

 「………前は、ほらファンの子達のことがあって……伏せてたから」

 「そっそうやったんや」




 前の事を話すのはきっと辛いやろう気をつけなと昨日思ったばかやのに失敗した。

 また悲しいんでないか心配したが、彼女は苦笑してそれだけ言うとそっと俺の隣に立った。



 「その、改めて宜しくね白石君」

 「おん、こちらこそ宜しくな藤原さん」



 まだ少しぎこちない笑顔だけど、それでも、彼女の気持ちが少しでも以前と違うならそれは自分にとっては大きな一歩前進だった。

 その笑顔が早く、自然な笑顔になればと思わずにはいらなかった。



 部活をしている白石達のサポートをしながら一息ついてテニスコートで練習している白石を見る。

 まだ原作の白石とは違い幼い白石の手には包帯も無ければあの口癖もない。


 自分の知らない白石がそこにいた。



 『俺を利用したらええ、俺と付き合って下さい』




 そう言って笑った白石の顔を思い出すだけで泣きそうになる。

 彼はどうして自分なんかにそうな風に言ってくれたのだろうか?

 どんなに考えても答えなんか出てこない。


 そっと握られた手は練習で出来た肉刺でゴツゴツしていて、幸村と同じだなぁと思った瞬間に自分に嫌気がさす。


 本当は断るべきだった。

 白石の為にも絶対に断るべきだったのに。


 一人ではもう限界だった。


 酷い大人なのだと思う。

 子供の白石に気を使わせてそれを利用しようと言うのだから。

 

 To Be Continued

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