恋物語
□間章
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目が覚めてそっと枕元に置いていた携帯電話を手に取った。
画面を表示させて、そこに受信メールの通知は無い事に気分が落ちる。
思わず出る溜息、この流れが最近の自分の一日の始まりとなっている。
朝から暗い気分になる。
以前までは毎朝必ず、きっちり同じ時間にメールが送られて来ていた。
それを見るだけで今日も一日頑張れるそんな気になっていた。
自分が起きる時間の前に彼女は何時も起きて、それを送ってくれていたのだと今更になって気が付く。
彼女と別れてから、彼女が自分にしてくれていた些細な、だけど、切なくなるような深い愛情と優しさに気が付いて、その度に情けなくなった。
毎日欠かさずそれを続けてくれた。
なのに、自分は最初こそ返事をしていたけれど、それが当たり前になると見るだけで返事すら返さなくなっていた。
『くれぐれもケガをしないように』
『無理しないでね』
『頑張って、応援しています』
毎日、気遣いながらそれでも応援してくれていた。
それなのに自分はそんな彼女に何もしなかった。
別れてから彼女からのメールを読み返して思わず声を出して泣いてしまった。
『精市君の声が聞きたい』
それは彼女が自分に初めて求めてきた言葉。
自分が携帯電話で彼女と通話した履歴の二週間後のものだった。
気が付かなかった。
無視した訳ではない、ただ、毎日の部活の疲れから後で確認しようとしてそのまま忘れてしまったのだろう。
返事のこないメールを送り続けた彼女はどんな気持ちだったのだろうか?
それを思うと胸が苦しくなる。
後悔している。
あの日からずっと。
なんで?どうして?
それを繰り返し考えさせられてる。
彼女、藤原優美はそっと傍に寄り添い、だけどしっかりと支えてくれるそんな感じの不思議な子だった。
出会った時に直感で思った、【ああ、俺はこの子の事を好きになる】って。
その直感は当たった。
彼女を知り、ドンドン惹かれた。
恥ずかしがり屋で、控えめで優しい。
幼くもあり、時にこちらが驚く程大人な考えを持っている。
先を、未来を想像させる子。
そんな子にもう出会えないのではないかとすら思ってしまう。
好きだった。
否。
今でも好きだ。
そんな事言える立場ではない事はわかってるけれど、それでも、好きなのだから仕方がない。
忘れなければと思った、思ったけれど、忘れられる気がしない。
考えないようにすればするほど、彼女がいない事を実感して泣きたくなった。
今ならわかる。
彼女の気持ちが強く。
「優美の・・・・優美の声が聞きたいッ・・・・」
それを求めた彼女の気持ち、寂しさと悲しさに、今更気が付くなんて。
仲間が大切だった。
守りたいと思った。
だけど、決して優美と別れたかった訳じゃない。
そっとフォルダの中を開く。
数枚しかない優美の写真。
控えめにそれでいて幸せそうに自分の隣に寄り添い笑う。
彼女がいない現実が日に日に重く自分の中に圧し掛かってくる。
「増えたな溜息」
「え?」
朝練後、着替えをしていると隣で着替えていた弦一郎にそう言われて思わず現実へと引き戻される。
「俺、そんなに溜息ついていたかい?」
「ああ」
「そうか、ごめん」
「いや、別に謝る事はないが」
持っていたジャージの上着をハンガーにかけてロッカーの中にかけると鞄を取り出しドアを閉める。
指摘されて再度溜息をついてしまう。
「・・・・・藤原の事か?」
「!?」
「・・・・・そうか」
ポーカフェイスは下手ではない筈だった。
大事な大会前に自分のメンタルはとても良いと言っていい状態ではない。
何とかしないとと思うのに解決策がまったく見つからない。
辛くて、苦しくて。
忘れたいと思う。
だけど、身勝手にも忘れたくないと思う自分がいる。
別れて、彼女は転校してもう傍にはいなくて、全ては終わってしまった筈なのに。
自分の中では終わっていない。
まだ何も終わっていない。
自分だけが気持ちの整理がつかない。
全身で自分の気持ちを伝えてくれる様な子が、別れを選択する程の時間放置したのは紛れもなく自分なのに。
消そうと思った想いは消える所かドンドン募っていくようで、ただただ苦しい。
優美と話したい。
優美に会いたい。
考えるのは彼女の事ばかり。
「精市・・・・藤原の居場所を知りたいか?」
「え?」
一瞬、言葉に詰まった。
言われた言葉が頭に入ってこなかった。
どんなに強く彼女の事を想っていても、全ては今更だ。
それは分かってる、だからこそ考えた。
「余計な事を言ったか?そうだったら、すまない」
「いや・・・・けど、何で弦一郎がそれを知っているんだい?」
「藤原が転校した後にたまたま職員室に言った時に担任の教師が彼女の親と話していたようで、その時に聞こえてしまったんだ」
「そう・・・・・・ッ・・・弦一郎、教えてほしい」
考えるより先に言葉が出ていた。
「藤原は今、大阪の四天宝寺中学に通っているそうだ」
「大阪!?」
「なら、コレも必要かな?」
「蓮二、これ!?」
何時の間にか隣に聞いてた蓮二から渡されたのは一枚のメモ紙。
そっと開いてみれば、大阪の住所と一つの電話番号が記載されていた。
「携帯の番号までは分からなかった、すまない」
「そんなッ、十分だよ!二人共ありがとう!!」
大阪四天宝寺中学、聞いた事のある学校だった。
「今度の練習合宿があるだろう?」
「え?うん」
「その合宿の宿に、粗同じ日程で大阪四天宝寺中学が泊まるらしい」
「!!」
「電話がかけにくいと言うなら、その時に1年の部員がいるだろうから藤原の事を聞いてみればいい。転校生だし、何より彼女は人目を惹く容姿をしているからきっと知っているだろう、もしかしたら同じクラスの人間もいるかもしれない」
「そうだね、ありがとう蓮二」
「いや、お前の気持ちが少しでも浮上するならと思ってな。調べていて正解だったようだ」
資格なんて何もないかもしれない。
それでも、もう一度ちゃんと話したい。
あの時、情けなくも何も言わず終わらせてしまったから。
もう後悔はしたくない。
それが例え自分のエゴだったとしても。
To Be Continued