恋物語

□第七話
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 「明日、暇やったら何処か出かけん?」


 少し照れた様子でこちらを見ながら昨日の部活後に白石は言った。

 本来なら部活の土曜日、だけどコート整備で土曜日曜と二日間が部活休みとなった。

 久しぶりの休み、更に言えば連休となれば部員達のテンションは高かった。

 学校もなく部活もない、そんな日に予定になんて特にない。



 だから別に良いと返答すればガッツポーズをして喜ぶ白石。

 それを見て思わず笑ってしまう。

 だけど、いざOKの返事を出しては見たけれど、自室のクローゼットを前に悩む。



 昨日も散々悩んだけれど結局決まらず、朝からどれにしようか悩んでいる。

 白石は自覚もあるくらい女子の目を惹く存在。


 そんな人の隣を並んで歩くのは今から思えば結構勇気がいると思う。

 学校みたいに決められた制服があるのなら良いのだけれど。

 私服なんてもろに自分のセンスが出てしまう。



 不意に気が付いて苦笑する。



 幸村といた時もこうして悩んだなぁと。

 デートなんて一度だけしかした事はないけれど、あの日もこんなふうに悩んでた。



 少しでも可愛いと思われたくて、前日に服を買いに行き散々悩んで購入した。




 『優美に似合ってる……その……可愛いよ』




 少しだけ頬を染めて、大好きだったあの微笑をこちらに向けてくれた。

 その事が嬉しくて泣いてしまい、幸村を困らせた。



 それから次のデートにはコレにしようと色々悩んで買った。

 その服が今、目の前に並んでる。



 決まる訳ないかと思わず溜息をつく。


 ココにある服は幸村の好みに合わせた服ばかり。

 白石の好みなんて知らないし、自分は聞こうともしなかった。

 今までの会話でもそう言うのがあったかもしれないけど覚えていない。



 つくづく自分が最低で笑えてくる。



 外は晴天、気温も高くなってきたから白のワンピースを手に取る。

 昔なら躊躇するような可愛いその服を着て麦わら帽子を手にとる。

 髪は少しでも涼しくなればとツインテールにした。



 子供ッポイかな?と思ったけれど改めて自分の今の年齢を考えれば特に普通だと思いそのまま鞄を持って家を出る。



 約束の時間までは少しあるけれど、白石のようなタイプならきっと既にいる気がする。


 そう思って向かった駅前。

 予想通り先に着ていた白石。

 だけど、何人かの女子に声をかけられていた。



 幸村の時も思ったけれど、どうしてテニキャラはあんなに格好良いのだろうか。

 私服のセンスはもちろんだけど、モデルみたいだ。

 周囲にいる女子がチラチラと視線を向けて意識してる。



 「まあ、綺麗な子やねぇ」



 そんな事を言いいながら話してるおばちゃん達もいる程。

 とにかく、自分の予想以上に白石は目立っていた。


 正直近づきたくないのだけれど。

 どうしようか困っている時だった。



 「ねぇねぇ、君暇?」

 「え?」



 肩を叩かれて振り返ればどう見ても軽そうなチャラチャラした男がニヤニヤしながら話しかけてきた。


 「うひょー、超大当たりじゃん」

 「マジスゲー、読モとか?やべー」



 ゾロゾロと現れた男は三人、どの男も似たような男。

 最悪だと思い無視して離れようとすればグッと手を掴まれる。

 気持ち悪い。



 「離して下さいッ」

 「可愛いッ、ねえねえ、俺達が金出すから一緒に遊ぼうや」

 「結構ですッ、離して下さい!」

 「そないにつれない事言わんとさ」

 「かっ彼氏を待たせてるのでッ」

 「マジかよ!?どんなヤツか知らんけど、俺等のほうが絶対良いって」

 「そうそう」




 冗談は顔だけにしてほしい。

 どう見ても白石の方が何千倍も良い男だと思う。

 一向に離してくれない手を振り解こうとしていれば、相手もそれを阻止しようと力を入れて掴んでくる。

 自分の力では振り解けず、困惑していた時だった。



 「悪いけど俺の彼女なんや、その手離してくへん?」



 そう言って私の手から男の手を離してくれて、間に入ってくれた。

 目の前にある白石のその背中は何処までも男らしくて。

 間に入った白石と、周囲の視線に男達はばつが悪そうにその場から去っていく。



 「ゴメンッ、気づくの遅れたわ」

 「ううん、大丈夫。来てくれて……その……嬉しかった」

 「!?」

 「……ありがとう」

 「おっおん」



 そっと握られた手。

 周囲の視線とか、凄く恥ずかしかったけれど、それでもそっとその手を握り返した。
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