夢回路
□第一話
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能力は健在なのはひとまずは安心できた。
酷い時は、今まで培ってきた能力全てが使用不可なんて時もあった。
トリップ先で本当に死んでしまうバットエンドだって何度も経験した、だけど、これで終わったと思った人生も気が付くとまたあの部屋に戻されているのだ。
正直、今自分が本当に生きているのかも定かではないように思う。
だからこそ思う。
自分達は『化け物』だと。
死んだり、生き返ったり、男になったり、子供になったり大人になったり。
本当の自分だって忘れても可笑しくない状況で自分を保っていられたのは隣にいる相方の存在があるからだと言える。
自分と同じ境遇で自分と同じ趣味で自分と同じ状況を一緒に生きるからこそ、自分を保てる。
第一話 ミッション開始
とりあえず、このまま海の上を漂っている訳にもいかないので近くの島を探す事にする。
とは言っても、ログポースもなければこの海しか見えない場所では普通なら動きが取れない所。
こんな時は、『ハ○ター×2』の念能力である『円』が大活躍だ。
円の広さをドンドン広げていく。
達人で50mなんて言われている、ならば自分は何と呼ばれるのだろうなんて考えていると円の中に漸く島らしきものを見つけた。
これで情報が取れると安心して、すぐに海に手を付けると木の板は今まではただ漂っていただけなのだが、突然、意思を持ったように動き出す。
まるでエンジンでも搭載された船のように凄いスピードで島へと向かっていく。
「とりあえず今がどのくらいの年代なのか調べないと」
「ミッションが簡単な事を願うよ」
神様から与えられるミッション、それは本当に様々だ。
主要キャラと恋愛しろって言う内容が大半なのだが、たまに面倒な内容のものもある。
ヒロインから奪い取れだの、三年以内に落とせだの、結婚しろだの、男同士で恋愛しろだの本当に自分達が飛ばされた設定に合わせて、本当にイロイロなミッションが来るのだ。
そして、成功すれば無事に別の世界へといける。
だけど、失敗すると、別の世界に行った際に罰ゲームを受けなければならない。
彼女のいるキャラクターを男で落とせなんて、無理難題は普通にくる。
男が男と恋愛するなんて事はマズ稀な事なのだ。
漫画や小説なら簡単に起こり得る事であっても、リアルはそうなのだ。
それを三年とか期限つけられて、『とき○モ』的にミッションされても困難だ。
実際にその罰ゲームも失敗した事だって何度もある。
その場合はその姿のままその世界で意味もなく生きなければならない。
一応、女に生まれたのに男の身体になるとは本当に微妙で不便。
出来れば罰ゲーム自体ごめんだから、必死で与えられたミッションをこなして来た。
不意に思い出すのはこの世界で経験した罰ゲーム失敗後の本当の罰。
「数年間お世話になった人達が死んで残された人達が悲しんでいる姿って言うのを、ただ見ているだけなのが一番辛かったなぁ」
「急にどうしたのさ?」
「罰の事」
「……あー……うん」
飛ばされる世界では確かにウンザリしたり迷惑だって怒ったりもするが、でも、決してその世界が嫌いな訳ではない。
大好きな世界だからこその罰なのかもしれない。
叶わなかったものを見続ける、それは、罰以外の何者でもない。
「まあ、ミッション次第ではそう言うパターンもあるから今からイロイロ考えてると後が辛いし、取り合えずは先を進もう」
そうなのだ。
トリップし続けて学んだのは最初に望まない事。
こうしたい、ああしたいは、後でミッションを受けた時に辛い。
あの人とこうなりたいと思っているのに、違う人と付き合わなければならなかったり、助けたいと思っていても指定されたミッションでは助けられないルートだったりとなるからだ。
だから、考えないようにした。
望みはミッションの後に。
でないと、辛いのは自分なのだから。
暫くして、やっとたどり着いた島。
小さいながらにも、それなりに活気のある良い島だった。
その島でまず得た情報は、まずこの世界が『ワン○―ス』の世界で間違いない事。
大海賊時代が始まっていると言うこと。
そして、ポートガス・D・エースがつい先日、白ひげ海賊団に入ったと言う事だった。
その情報を島に一つしかないと言う酒場で得た時、周囲の人間には見えない自分達の前のみに現れる文字盤が出現した。
『 【MISSION】
不死鳥のマルコ、火拳ポードガス・D・エース
両者の者を恋愛攻略すべし
白ひげ海賊団の救出すべし 』
とりあえず、カウンターでのんびりと頼んだカクテルを飲みながらジッとその文字盤のようなものを見つめる。
静かにグラスをテーブルに置くと御代を払い揃って酒場を出る。
「まぁ、好きな展開だからいいんだけどね」
「うん……追加とかあると思う?」
「何とも言えないねー……」
「だよね……とりあえず、探そうか?」
「そっだね」
追加でミッションがプラスされるなんて事もあるから慎重にならなければならない。
まずはやるべき事が決まった為二人は現在、白ひげ海賊団が航海しているだろう予測ポイントを探すことにした。
情報を得るには海軍と何度もトリップした経験からそう答えを導きだした二人はさっそくその島の海軍基地へと行こうとしたその時だった。
自分達がたった今立っている道の反対側、屋台のようなお店の前に置かれた幾つかのテーブル席。
長身で真っ白なスーツを着てダルそうにしている人物に目が行き優子は足を止める。
なんでこんな小さな島にあの人がと思った時、ハッとして視線を逸らそうとしたが時に遅く、相手が一瞬の視線を感じたのかゆっくりとその顔を優子へと向けた。
何を考えているのかわからない、相変わらずどの世界でみても彼の瞳は冷たかった。
「んじゃあさ、とりあえず手分けして……ってどったの?」
「ひーちゃんごめん、いきなりミスった」
「はぁ?何を?」
そう瞳が聞き返してきたと同時に優子は不自然にならないように瞳の肩に手を置いた。
触れた瞬間に回線が繋がる。
回線と言っても、声を出せない時やピンチの時、離れ離れになった時などで使用している能力。
別に触れなくても出来るのだか、ただ見詰めあうだけなんて不自然。
その為、近くにいる時はこうして触れて『お肌の触れ合い回線』を利用している。
触れた部分が回線となる。
所謂、接触テレパシーだ。
(これ使うほどマズイ事って何さ?)
(右みたらわかる)
優子に言われてゆっくりと右の気配を探るそして、感じとったその存在に若干顔を引きつらせながらニッコリと微笑む。
(なーーーーんでいるのかなアイツは?)
(こっちが聞きたいし)
(目があった?)
(バッチリ……ごめん)
(いやいや、私的には自分にフラグが立ってないなら問題ないからいいぉ)
(ちょっと!!まだ私って決まってないでしょ!?)
(いや、決まりっしょ?めっちゃ見てるじゃん優子さんの事)
(いやあああああああ)
(がんばっ!)
そう言うと瞳はゆっくりと優子の髪の自分と同じように束ねているリボンへと伸ばし崩れてもないのに直すフリをした。
全快の笑顔で優子をみる。
「それじゃあ、私あっちで色々みてくるね」
「ちょっ!」
「えっと、1時間後にココでまた!じゃあねー」
「ひーちゃん!!」
優子の呼び止める声も無視して瞳は笑顔で手を振ると歩き出し、ある程度進んだ先で全力でその場から……逃げた。
残された優子は未だこちらを見ている男にウンザリしながらもとりあえず気が付かなかったフリを決め込んで歩こうとしたが。
「あららら、美形の双子ってのは珍しいねぇ、今夜どう?」
「………はい?」
ゆっくりと近づいてきた男は上着を肩に乗せてサラリッと優子をナンパした。
頬を引きつらせながら優子は一歩後ろに下がる。
何度会ってもこの男は大きい。
こうしていると、とても海軍大将だなんて誰も思わないだろう。
マントも着てない。
『だらけきった正義』を掲げているだけはある。
「どっどちら様ですか?」
「あ、俺のこと知らないか……俺はクザン、これでも一応は……まあ、あれだ、うん」
相変わらず何が言いたいのかまったくわからないまま自己解決した目の前の男、海軍三大将の一人、青雉ことクザン。
良い人なのだが、色々と本当に面倒だ。
ミッション以外でもトリップをしていると、対象キャラクター以外のキャラクターにもフラグと言うものが存在する。
そのフラグが立ってしまうと、好意を持たれてしまうのだ。
だから、できるだけ他のキャラクターに変なフラグを立てないように気をつけているのだが、今回のは本当に運が悪かった。
どうしてあの時、右を気にしてしまったのかを後悔中だ。
そして、彼のフラグはどうやら自分のようだと優子は感じた。
それが証拠に、瞳が消えても彼の興味は自分に残ったからだ。
「見ない顔だけど、旅行か何か?」
「まあ、そんな所です」
「ふーん……女二人で、この海をねぇ……」
その呟きに更に頬を引きつらせて優子はその場を去ろうとするが、グイッとその腕を掴まれる。
決して力を入れられている訳ではないのに、簡単には振りほどけない。
もちろん、力を使えばクザンですら一撃で仕留められるだけど、それは出来ない。
彼はのちの戦いにも出ているのだから……。
事態は自分をドンドン不利にしている気がして優子は心の中でため息をついた。
To Be Continued