夢回路

□第二話
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 ゆっくりと掴まれた手に視線を向けて再度、クザンへと視線を戻す。


 相手の視線がジッとこちらを見ていて居心地が悪い。


 とりあえず、この手を離して頂こう。


 優子はゆっくりと絶を使う。

 触れられていた腕からグサンの手を離しそのまま流れるように距離をとる。


 その一瞬の出来事にクザンは目を見開く。


 「あららら……驚いたね」

 「そう気安く女性に触らない方が良いですよ?」

 「………名前は?」

 「えっ?」

 「君の名前、教えてくれない?俺は名乗ったと思うけど」


 ジッと見つめられて口よどむ。

 正直な所、名乗りたくなんてない。

 これ以上の面倒をさける為にココからさっさと離れたい。

 フラグなんて立ってなかったと自分を置いて行った薄情な親友に言いたい。



  第二話  何度目かの出会い



 「名乗るほどの者ではないですよ」

 「名乗らない理由もないでしょうよ?」


 本当は何もなかったとしてこの場を去りたいのに……。


 これは違うと、そう思いたいのに。


 視線を戻す。


 ココで逃げてもこの人は追ってくる。

 それは今まで何度もトリップしてきたこの世界で、クザンと何度も男女関係になった事があるからこそわかる事。


 恋愛して結婚して子供だって持ったことがある。


 優しく触れて優しく抱き締めてくれて、あの冷たい瞳が自分に向けられる時だけ優しくそして甘く揺れる事を知っている。


 だけど。


 自分が愛したクザンとこの世界のクザンは違う。


 トリップをした時、当然最初は何だかんだと言っても結局はそういう関係になってしまえば気持ちは動くもの。

 否、むしろ動かなければ本当の化け物だろう。


 こういう体質(?)になってしまった以上は、トリップした先々でちゃんと自分として恋愛している。

 例えそれがミッションがあるからだとしても、決められた相手だとしても、ちゃんとしっかり自分の恋愛をしてきた。


 そして、次にトリップした先ではミッション通りまた別の相手と恋愛する。


 気持ちを切り替えなければ辛いのは自分達だと身をもって学んできたから。


 前の恋愛を引きずると失敗に繋がる。

 時にそれは、相方の命すら危険に晒す結果になる。

 それは、優子も瞳も今まで多くトリップしてきた最初の方で経験した。


 人とは時に厄介な生き物。

 恋愛感情があれば、当然出てくる感情がある。

 トリップクリアした後、また同じ世界にトリップする事だってザラにある。

 先のトリップで結婚した相手と次のトリップで相方が恋愛するミッションだった、なんて事は数多い。


 当然、切り替えが出来なければ生まれてくるのが『嫉妬心』だ。


 危険のない世界なら構わない。


 だけど、それがもし、命をかけるような世界だった時……。


 『ごめんなさいっ!!ごめんっ!!ごめんなさいっ!!』


 血に染まった瞳の姿を思い出して一瞬、表情が強張る。

 自身の手に付いた相方の血は何処までも赤かった。



 死んだって生き返る。


 だけど、そんなルール説明は受けていない。

 だから、もし例えそれが死んだとしても本当に生き返る事が使用としてあるならいいが、もしそれが、たまたまだったら?


 たまたま生き返る条件が揃っただけだったとしたら?


 そう考えると怖くて仕方がない。

 何度みても、何度経験しても、瞳を失った時の何とも言えない感覚は絶対に忘れない。

 己を失って一つの世界を壊した罪を優子は忘れないでしっかりと覚えている。


 『優子さんだから別にいいよ?』



 瞳は笑ってそう言った。

 全てが終わった後、死んだ筈の瞳がソファに座り笑ってそう許してくれた時、何年ぶりかに号泣した。


 そして逆もしかり。


 自分が死を瞳の為に選んだ時も、瞳は同じように号泣していた。

 その時、瞳が何を考えていたのか優子には何となくわかった。

 きっと同じ事を感じたに違いないと。


 だからこそ、自分達は切り替える。

 大切なのは自分と相方。

 この天国であり悪夢であるループの中で欠かせない唯一の存在。

 優先すべきは『相方の命』それだけを第一に今までやってきた。


 たとえそれが、人間として感情が欠落してしまったとしても。

 構わない。


 だから、切り替えられる、平然と冷静にアッサリと。


 「ユウコ・ヤスウチ」

 「ユウコ……なんとなく優しい響きでいい名前だねぇ」


 どの世界にいてもキャラクターは同じ。

 だからこそ紡ぐ言葉が同じになる事は当然ある。


 本当に、嫌になる。


 だけど。

 もう、そう言うのに一喜一憂する年齢ではない。

 自分達はもう覚えているだけでも500歳以上生きてきているんだ。



 「妹と約束があるからこれで」

 「あそこでお茶どう?もちろん俺の奢りだ」

 「いえ、結構です」

 「約束してた時間はまだ先でしょ?」



 しっかり聞いていたようだ。

 逃げる口実を考えても、何だかんだ理由をつけられ後をつけられる。

 ならば、情報収集は自分を置いていった瞳に丸投げすることにした。

 クザンの指差した場所について行きテーブル席の椅子に向かい合うように座る。

 この島で評判だと言うケーキと紅茶はなかなかの味だった。


 「女の二人旅してるだけあって、なかなかみたいだけど……もしかして海賊なんてしてないよねぇ?」

 「あら、していたらどうしますか?」

 「海軍大将を前にして笑いながらそれを言われると……うん……まあ、惚れるね」

 「はっ?」

 「どう?こう見えて俺結構高級取り。将来有望。お買い得物件だよ」

 「えっと……」

 「ちょい歳の差ありそうだけど、今時珍しくないから平気っしょ?」

 「ちょっとまって!!」



 どんどん進んでいく話に思わずストップをかける。

 本当にマイペースすぎる。

 こういう人だと分かっていたけど、やっぱり慣れない。

 よくよく考えれば自分の相手として選ばれるキャラクターは超がつくマイペース屋ばかりな気がする。



 「一体、なんの話なのかさっぱりなんですが……」

 「えっ?結婚の話でしょ?」

 「そもそもまだ付き合ってもないですよ!!」


 ハッキリとそう告げるとクザンはとても残念そうにテーブルに伏せた。

 優子は頬を引きつらせる。

 師匠がガープなだけあって、クザンのこう言うところは本当にソックリだと思う。

 大人のくせに、時々こういう子供っぽい振る舞いをする。


 「大きな身体でイジイジしないでください、一緒にいるこっちが恥ずかしい」

 「冷たい、おじさん泣いちゃうよ?」


 ココに来てからまだ数分しかたってないのに、早くココから立ち去りたいと優子は溜息をつく。

 黙っていればイケメンなのにと思う。

 空を見上げる。

 早くココに瞳が戻ってきたらいいのにと、考えるのはそればかりだった。

 To Be Continued

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