夢回路
□第三話
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余計な面倒に巻き込まれる前にさっさと面倒事から相方を犠牲にして逃げた筈なのに、今自分の身に起こっているまさに面倒ごとに瞳は意味がわからないとげんなりしていた。
目の前には容赦なく覇気を向けてくる鷹のような目をした男。
何度も何度も自問自答するが、答えは出ない。
とにかく、白ひげが航海している場所を海軍基地から堂々と取ってきたまでは良かったのだが、まさか、こんな辺鄙で小さな島にこの人がいると誰が想像できただろう。
まあ、クザンがこの島にいた時点で既にそう言う意味の危険なフラグは立っていたのかもしれない。
瞳は愛刀を構えている男、王下七武会の一人、鷹の目ジュラキュール・ミホークその人を見て何度目かの溜息をつく。
「あの……初対面の無抵抗で無害の女の子に、いきなり抜刀とは酷くない?」
「参る」
「ちょっ!!」
容赦なく切りかかってきた鷹の目にイラッとした瞳は思わず、自分の間合いに入ってきた鷹の目の刀を蹴り飛ばした。
凄いスピードで鷹の目の手から離れた刀は近くにあった民家に根元までしっかり刺さった。
自分は悪くない、そう何度も繰り返しながらギロッと見てくる鷹の目を見て瞳は後づさる。
第三話 フラグの回収をしたいかった訳じゃないのに……
両手をとりあえず上に上げて降参のポーズをとる。
壁に刺さった愛刀を抜き取り再びこちらに構えたミホークに瞳は取りえず言葉を投げかける。
「あの、すみません。今のは条件反射といいますか……いきなり切りかかってくるのが悪いというか……とにかく、すみませんがその物騒な刀しまってくださいよ」
「見えているのに気配のない、覇気を受けても平然とし、本気の俺の刀を受け流した揚句に蹴り飛ばす力も並外れている人間を普通とは言わない」
ジッと視線を逸らすことなくそう言った鷹の目に瞳は思わず舌打をする。
クザンのフラグはしっかりと優子が受けてくれた、ならば今目の前にいるこの男のフラグは誰に?と考える必要もない事を考えてしまうのは最後の抵抗なのか。
「とっとにかく、剣はしまってよ、出ないと本気で逃げるよ」
「俺がみすみす逃がすとでも?」
「見えていたのに気が付くのが遅れたんでしょ?」
「………」
そう言われて暫く鷹の目は黙ると、静かに剣を背中に戻した。
一応、言う事は聞いてくれたのだがこの後どうしようと考える。
どうみても、見なかった事にしてくれる様子はない。
「えっと……それで、私は人が待ってるのでそろそろお暇したいところなんですが」
「名は何という?」
「へっ?私?」
「他にいない」
「あ、うん、……ヒトミ・ヤスウチ」
「賞金稼ぎか?」
「いや」
「では、海賊か?」
「まだ違う」
とりあえず、ココは素直に答えてさっさと開放してもらうと淡々と答えたのだが、鷹の目は考え込むように一度口元に手を持っていくとジッと瞳を見詰める。
「なっなに?」
「まだ違う?」
「うん」
「海賊になる予定なのか?」
「さぁ?先のことはまだわかんないけど、一応その予定だけど?」
「………どこの海賊だ?」
「どこって……まだ」
「その手に持っている海賊ならやめておけ」
「………」
流石は、七武会と言った所なのだろうか。
あの一瞬で地図の位置から特定したのだとしたら流石としか言えない。
瞳はジッと手元を見て再度、鷹の目に視線を向ける。
「理由は?」
「厄介な相手だ、女を海賊として受け入れるとは思えん」
「ふむ」
言われて思い出す。
確かに今までの経験場、そう簡単に仲間に入れられた記憶はなかった。
ナースの時はアッサリ入れたし、幼馴染の時も意外に乗れた、結成の時にいた時も当然乗れたが、それ以外の途中参戦ではかなり苦戦した事を思い出す。
女を乗せると言う事はそれだけリスクがあるからだ。
さて、どうしたものかと考えるがすぐに考えるのをやめる。
「まあ、何とかなるでしょ?」
「どういう意味だ?」
「今までなってきたから、それに、腕はそこらの男には負けないよ」
「………能力者か?」
とたんに鷹の目の瞳が険しくなる。
自分達は能力者ではない。
今までにそう言う経験はあるにはあるが、一応この島に着く前に確認した時は特に海に手を入れても平気だった。
まあ、海が平気な能力者だったこともあるから一概に正しい確認とは言えないが。
「違うよ」
「………面白い、やはり勝負しろ」
「だから、なんでそうなるのよ!」
「俺が戦いたいからだ」
「自由か!?」
相変わらずのマイペースっぷりを出されて思わず突っ込みを入れてしまう。
再び剣を構えた鷹の目に瞳はとりあえず持っていた地図とログポースをショルダーバックに入れる。
何にしてもココではマズイと瞳は走りだす。
海軍基地の近くで鷹の目と互角に戦うなんてのは自殺行為に等しい。
そんな自ら首を絞めるようなことするほど馬鹿ではない。
しっかり追ってくる鷹の目を振り切る勢いで走って辿り着いたのは島の人間でも迷い人が出ると言われている森。
人の気配もしないその森で瞳は追いついてきた鷹の目と対峙する。
「約束して」
「何をだ?」
「この勝負で納得して」
「ほぉ」
「いい?」
「………」
沈黙は肯定としている。
瞳は自らの左手の掌から一本の真っ黒な剣を取り出す。
自分の身長と同じ、否、それ以上に長くそして禍々しい気配を漂わせたその剣で構える。
『ブ○ーチ』の世界で使っている自分の斬拍刀『陽光華』。
久しぶりの愛刀、どの世界に言っても使用が可能な時には使った。
命のある生きた刀。
『主様、お久しゅうございます』
聞こえてくるのは懐かしい言霊。
何時聞いてもガサツな自分の刀とは思えない程、礼儀正しいそれは未だに慣れないけれど、心強さは変わらない。
一瞬の沈黙の後、動く。
勝負は一瞬だった。
ドサッと後ろで鷹の目は倒れる。
刀を再び手の中へと戻すと視線を倒れた鷹の目に向ける。
「一応、峰打ちだから。バイバイ」
聞こえていないだろう鷹の目にそう残して瞳はダッシュで森を抜けた。
たった今、自分の仕出かした事は忘れようと頭の中で繰り返す。
面倒なのはごめんだ。
とにかく、これでフラグなんか無くなればいいのにと切に願いながら瞳は優子との待ち合わせ場所へと急いだ。
To Be Continued