夢回路

□第四話
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 待ち合わせ場所に戻ると何故かテーブルでクザンと話ながらお茶をしている優子がいた。

 どういう状況なのかいまいちわからない瞳は困惑しながらも、ゆっくりと二人に近づく。

 瞳に気が付いた優子はホッとしたように息をつくと、席から立つ。



 「それじゃあ、妹も来た様なのでこれで失礼します」

 「あららら……ねぇ、デンデン虫の番号とかないの?」

 「生憎、持ってないので」

 「それじゃあ、これ俺の番号だから何時でも鳴らしてよ」

 「いらな」

 「受け取って、ね?」



 拒否の言葉を最後まで言わせないように言葉を遮り勝手に番号の書かれたメモを優子の手に押し付ける。

 いる、いらない、の押し問答をしてこれ以上の時間は潰したくなかった為に、溜息をつくと優子はそれを仕方なく受け取る。


 意外にも付いてくる様子のないクザンにホッとして二人はその場を漸く離れる事が出来た。





  第四話   漸く動きだす物語





 「それで?」

 「へっ?」

 「へっ?じゃないし、何で急いで戻ってきたの?」

 「べっべつに……」

 「そう、じゃあ……服ココ、少し切れてるのは何で?」



 優子に言われて瞳は気まずそうに少しだけ切れているシャツを手で隠すように握る。

 あの森から離れている時に気が付いた。

 流石は七武会、あの一瞬で切れないまでも服は切る事が出来ていた。

 それだけでも賞賛ものだ。

 視線を逸らし、とりあえず持ってきた地図とログポースを優子に渡しながら瞳は言い辛そうに口を開く。


 「何でか知らんけども……ミー君がいましたよ」

 「ふーん……はっ!?何で!」

 「知らんよ!いたもんはいたの!」

 「そっそう……で?」

 「でって言われても……後は、気が付いたら勝負しろって事になって……ぶっ飛ばしてきた……イラッとしたし……しつこかったし……」

 「………」



 一戦交えているだろうとは予測していた優子だが、まさかの、ぶっ飛ばしてまでは想像していなかった為に言葉を失う。

 どうしてこんな島にそんな大物ばかりが……と項垂れながらも、優子は今日一番の笑顔で瞳の肩をポンポンと叩く。



 「フ・ラ・グ、おめ!」

 「おめじゃねーーーから!!!」

 「良いじゃん、私を置いてった罰よ。それに、いーじゃんミー君」

 「良くないよ、クザンは色々面倒だけど、ミー君もミー君ですぐに切りかかってきて面倒以外の何者でもないよ」

 「フフフ、でも、フラグ立てたんでしょ?自分で」

 「うーーー……」


 優子に言われて瞳はガックリと頭を落とす。

 そうなのだ、あそこで無様に負けていればきっと興味を無くしてくれたに違いないのだ、なのにイライラしていた自分はまったくそれに気が付かず、ぶっ飛ばしてしまったのだ。

 負けた相手を無視する男でない事は嫌と言う程知っている。

 だからこその、フラグ成立なのだ。



 「はぁー……」

 「まあまあ、それで?白ひげは何処あたりなの?」

 「嬉しそうね、本当……今、ココら辺りにいるから、たぶん自分の縄張りのこの島に補給もあって寄るだろうってさ」

 「ふーん……ココらって、夏島系?」

 「だね、とりあえずは服とかこのままで良さげ」



 それだけ確認にすると二人は島の食品売り場へと急いだ。

 食べ物を取り出した何でもリュック、所謂『ドラ○モン』の四次元ポケット的なそのリュックにはとにかく無限に物が入る為、次々に買い物したものを入れていく。

 ある程度必要なものを買った二人は、今度は買い込んだ水をこれまた何でも水筒の中に流し込んでいく。

 その量は1船に必要な水の量が流し込まれる。

 重さなく軽いそれを背中のリュックの横に差し込むとすぐに海へと向かう。

 購入したのは小さな船。

 その辺にいる海王類位なら大丈夫だろう小さな船、それに乗り込むと優子は持っていた地図とログポースを見て方向を決める。



 「それじゃあ、行こうか」

 「そうだね」

 「結構飛ばすから……二日?位でつく予定で行こう」

 「ほいよ」

 「ひーちゃん昼ご飯の用意宜しく」

 「あいあい」



 鞄から取り出した材料を手早く調理していく。

 自分の手から火が出たりするのもこう言う時は本当に便利だ。

 海と言えばカレーなんて勝手なイメージを持つ瞳は何時ものように作ったカレーをお皿に入れて船を動かしている優子に渡す。



 「ふー、ちょっと休憩」

 「お疲れ様」

 「次、ひーちゃんバトンタッチね」

 「ラジャー」



 二人で並んでカレーを食べながら優子はこれから向かう場所について口をひらく。


 「どうやって乗ろうか」

 「うーん……それうちも考えてた」

 「どうしたもんかねー……」



 男ばかりの船に乗るのは本当に色々面倒であり大変だ。

 どのパターンでいけるか考えながら優子は冷たい水を飲む。


 「結構、使えるアイテムとかあるからかなり楽ではあるんだけどね」

 「だね」


 リュックと水筒は神様の使いであるあのピンク色のゾウを脅して用意させたものだ。

 他にも電気要らずの炊飯器もあるし、本当に便利なのは便利だ。

 そのかわりなのかどうか分からないが、何の係わり合いもない。

 自分で作って行かなければならないパターン。

 それはそれでかなり面倒ではある。


 「ひーちゃん」

 「なーに」

 「死なないでね?ってかケガもしないでね?」

 「唐突だね優子さん、どうしたのさ急に」

 「なんか、さっき色々思い出したら……うん、何となくそう言いたくなった」



 優子の言葉に瞳は食べていた手を止める。

 考えたのは同じ事だろう。



 「死なないよ、だから優子さんも死なないでね」

 「うん」

 「ケガもだよ?」

 「わかった」



 そっと差し出された小指、それに優子は自分の小指を絡ませて約束する。

 この世界の為にも、出来るだけ無傷であるように心がけよう。

 自分達は歳はとったが、まだまだ、全てを許せるほど心は寛容ではないのだから。



 そうして船を進める事、2日目。

 やってきた海域は蒸し暑い。

 前方にはこれでもかっと言う程の巨大な白鯨をイメージした船が停泊している。

 それに気が付かれない様に島へと向かい上陸する。



 漸く、きたこの日。



 目の前には目的の船『モビー・ディック号』がある。

 こんなに離れていても感じる存在感に、船長の凄さを感じる。


 「強いね、どの世界にいても白ひげは」

 「そうだね、確かに強い」



 荷物を背負い、ジッと船を見詰める。

 さあ、物語をはじめましょう。


 To Be Continued

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