夢回路

□第六話
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 ブツブツと文句を言いながらホテルへ向かう道を歩いていると不意にガッと強引に肩を掴まれて呼び止められる。

 不機嫌そうな顔で振り返ればヘラヘラと嫌な顔をして笑っている男達。

 さっきは優子に怒られて、ご飯も食べそこね、しまいには変な男達に絡まれると言うトリプルコンボに瞳はハァっと盛大な溜息をついた。

 今日は付いてない、むしろ厄日だ。

 そう思いながらも男達へと視線を向ける。

 とりあえず、この面倒な男達をどうしよう。





 第六話    それぞれのターゲット






 掴まれた肩からとりあえず相手の手を振り払い瞳は不機嫌そうに男達を見据える。



 「あの、私に何か用?」



 瞳のその問いに男達は下品に笑い慣れなれしく瞳の手を掴む。

 もう一人は強引に肩まで抱いてくる。

 先程まで飲んでいたのだろう、酒臭い口臭に吐きそうになりながらも瞳は何とかその臭いから逃げるように俯く。



 「ヒヒヒヒッ、俺達にビビッちまったかい?」

 「だーいじょうぶだって!優しくするからよぉ」

 「天国に連れて行ってやるよ」



 嫌らしく伸びてきた手が瞳の腰を抱く。

 抱き寄せられる格好になって瞳は思わず拳を握った。

 思いっきり渾身の力で殴りつけようとそう思っていたのに、近づいてくる気配に手を止める。

 面倒なことになってきたと、まだこの悪臭に堪えなければならないのかと、瞳はウンザリしながら、とりあえず男達の行為に堪えていた。

 酔って抵抗出来ないと勘違いした男達は鼻息を荒くしながら暗がりに瞳を連れ込むと強引に着ているシャツを脱がそうと引き裂いた。



 イラッとしてやっぱり殴ろうと瞳が動いたと粗同時位に瞳を押し倒していた男が後ろの壁へと吹き飛びめり込む。

 続いて左右にいた男達は殴られて倒れる。



 「だっ誰だてめー!!」

 「俺達が先に目を付けたんだぞっ!!」


 ガウガウと吠える男達は暗がりから姿を現した男を見ても尚文句を言い続ける。

 どうやらこの男の事を知らないようだ。



 「先とか後とか、んなテメー等のルールなんか知らねーよぃ」



 独特のイントネーションで首に手を当てながら月夜の光の下に姿を見せたのは不死鳥マルコ、白ひげ海賊団一番隊隊長その人だった。

 マルコは面倒くさそうにそう言うと手でシッシッと男達を追い払おうとするがマルコの事を知らない男達は無謀に立ち向かう体制をとる。



 「今すぐ手を引いて立ち去るなら許してやるよぃ」

 「馬鹿か!色男気取ってんじゃねーよ!!」

 「一人でどうしようってんだ!」

 「ハァー……その女には、ちっとばかり借りがあるんでねぃ。忠告無視するってんならしょうがないよぃ」



 騒ぎを起こしたらダメとかなんとか言っていたような気がすると瞳はマルコを見詰めた。

 立ち向かってきた男達を一瞬のうちにボコボコにしたマルコはゆっくりと瞳に近づき手を差し出す。

 その手を借りて起き上がるとフワリと嗅ぎ慣れた匂いに包まれる。


 前は止めずに着ていたシャツをかけてくれた。

 ココにマルコがいると言う事がどういうことなのか瞳は理解する。

 チラッと視線を上げれば優しく声をかけてくれるマルコ。

 どうやら自分の相手がマルコなのだとわかった瞳は心の中に盛大に溜息をつきながらもマルコと向き合うとその視線を合わせる。

 今まで何度も色んなパターンでこの男と恋愛をしてきた。

 マルコとの恋愛に関しては優子よりも自分の方が断然多い。

 だから、わかっている。

 どの世界のマルコも皆同じ。

 この男は自分をしっかり持ち、前を真っ直ぐ見る瞳が好きなのだと以前言っていた。

 だから、そのスタイルは貫き通す。

 それがまず最初の一歩。




 「あ、ありがとう」

 「俺が来なくてもお前なら何とかなりそうだったみたいだけどねぃ」

 「まぁ……けど、酒入ってたし……助かったよ、うん」

 「フッ……そうかぃ」




 何とも言えない気恥ずかしさからマルコから視線を逸らしてお礼を言う。

 頬を赤くしてそれでも礼はちゃんとする瞳にマルコは笑う。

 どうみても襲われましたって感じの格好を隠す為にマルコから借りたシャツのボタンを留める。



 「これ、ちょっとの間借りる」

 「やるよぃ」

 「けど」

 「シャツ一枚位でガタガタ言うほど困ってねぇよい」




 ポンポンと頭を撫でられる。

 そして気が付く。

 これは面倒だと心の中で盛大に溜息をつく。

 何の接点もなければ係わり合いもない時ならば仕方が無い。

 年齢差だって今回はある。

 だから、マルコが自分を子供扱いしているのも仕方がないのだが。



 「子供じゃないけど」

 「俺からしたらカギだよぃ」

 「馬鹿にしてる?」

 「事実だよぃ」




 本当に面倒だ。

 相手が自分を子供扱いしている以上、自分は普通以上の行動をし相手のその考えを撤回させる必要がある。

 恋愛をするにも、同じ土俵にいないのでは話にならない。

 不機嫌そうに拳を握りしめて思いっきり壁を殴りつける。

 一瞬にして粉々になった壁を見てマルコは黙る。



 「子供扱いはやめて、これでも18歳。歳の差で子供って言うのは仕方ないけど、せめて私の前ではそれを出させないで。出ないと……暴れるよ?」

 「事実を言い当てられて暴れるって言うヤツの何処が子供じゃないのかねぃ」



 馬鹿にしたようなそんな笑い方で言われた瞳はビキッと青筋たててマルコを睨む。


 「ふーーん!じゃあ、アンタの頭が立派な立派な南国フルーツに見えるのだって事実だから言われても仕方ないって言うんだね!そっかぁ、仕方ないのか!流石だよ、パイナップル頭」

 「………言ってくれるよぃ!」

 「そんな奇天烈ヘアーされたら言わずにいられるか!」

 「クソカギ!」

 「バナップル!!」

 「バナップル!?」

 「バナナにも見えなくもないでしょ!だから合体させてやった!」

 「させんなよい!!」

 「イーーーーーッだ!」



 フンッと鼻をならして瞳はマルコに背を向けてホテルへと入っていく。

 それを見送るとマルコは盛大に溜息をついて苦笑する。

 そして、不意に視界に入った壁へと視線を向ける。



 「力もいれずにこの威力……とんでもないガキだなぃ」




 一方、その頃。



 白ひげ海賊団のエースの部屋らしい場所。

 まだ新入りと言うこともありエースの部屋は数人が一緒に生活する部屋だった。

 そのエースのベットに何故か優子は腕を掴まれた状態でエースと一緒に横になっていた。




 「………困った」




 口からこぼれた本音を誰も拾ってはくれない。

 酔っ払ったエースを連れて帰ってもらおうと振り返れば店には白ひげのクルー達は一人もいなかった。

 だからと言って見捨てて帰ろうにも店のマスターに泣いて連れて行ってくれと頼まれてしまうとどうにも出来ない。

 仕方なくベロベロに寄ったエースの案内で何とか白ひげの船まで連れてきたのだが、船を前にした所で目を覚ましたエースは小船から優子を抱えて飛び上がり、綺麗に甲板に着地するとそのまま優子の言葉を無視して自分の部屋に戻りそのままベットへとダイブした。

 グーグーと寝ているだけならまだいいのだが、優子を逃がさないようになのか掴んだ手が離れないのだ。

 ちょっと本気を出せば簡単に外せるのだがココで不用意に力を使う事を躊躇ってしまう。



 「どうしよう」

 「何がだい?」

 「っ!!」



 不意にかけられた言葉と感じた気配に優子は本気でビクッとなった。

 考えに熱中していたせいでまったく自分達以外の気配に気が付けなかった。

 エースのベットで一緒に眠っている優子を覗き込むように見ていたのは16番隊隊長のイゾウだった。



 「お前さんは誰だ?」

 「あっ……私、今日酒場でエース……君と知り合いまして、一緒に食事していたんですが酔いつぶれたみたいなので彼の案内でココまで連れてきたのですが……あのっ……寝ぼけてたみたいで……そのっ……これ外れなくて」


 掴まれている部分を持ち上げて見せると、ビックリしたように優子を見たイゾウはすぐに溜息をついてエースのその手に強く手刀を入れた。

 さっきまで外れなかったのが嘘のように開放それて優子はホッとする。

 ベットから起き上がり立ち上がろうとした優子だが、腕の変わりに今度はエースは事もあろうか違う場所を掴む。



 「えっ!?きゃっ!!」

 「危ねぇ!」



 エースに掴まれたのは優子の履いていたショートパンツ。

 立ち上がった勢いでズルっと脱げかけたショートパンツのせいでバランスを崩して倒れそうになったのをイゾウがすぐさま抱きとめる。

 ホッとしたのも束の間、下着の見えているこの状況に優子は赤面して何とかしようとするが倒れた体制とショートパンツを掴んでいるエースの手のせいで動くに動けない。



 「たくっ!コイツ何てことしやがる!」

 「あっあの!動かないでくださいっ!」

 「んなこと言ったってお前………悪い」

 「いっいえ」



 外の光で暗い部屋が照らされている。

 そのせいか格好を見られたななくてイゾウが動くのを止めた優子、イゾウは優子の言葉に驚きながらも体制を立て直そうとしたが見えてしまった格好に理由を察してすぐに動きを止める。


 「次から次へとコイツ」

 「すみません」

 「別にお前さんは悪くないが……とりあえず、俺は目を閉じる。それで体制を直すがそれでいいかい?誓って見ないと約束する」

 「あっ、はい!お願いします」




 特に下着を見られたくないからどうこう言ってる訳ではない、あまりにも体制が間抜けすぎで恥ずかしいだけなのだ。

 有限実行で目を閉じたままイゾウは起用に優子を立たせてくれた。

 だが、ココで更に問題が起きる。



 「あっあの」

 「ん?どうした」

 「手が……離れませんっ」

 「はぁ!?コイツ……一回殺すか?」



 体制を何とか立て直したのだが、自分の膝までずり落ちたショートパンツを上げようにもボタンは取れてしまい、エースに掴まれている状態では上に上げようがない。

 寝ているエースの傍でも力を使えなかったのに勘の良いイゾウの傍でなんてもっと使えない。

 この羞恥心で何とかなりそうな状況でイゾウはくるっと優子に背を向けた。



 「ちょっと待ってな」

 「えっ?」

 「すぐ戻る」



 それだけ言い残すとイゾウは一旦部屋から出て行った。

 言葉通り、暫くして優子の傍に戻ってきたイゾウは持ってきた着物を一つ優子に差し出した。


 「そのままじゃあ帰せねーし、とりあえず、それでも着て帰るといい」

 「そんなっ、ダメです」

 「ダメって言ったって、その格好で帰るのかい?」

 「それはっ……」

 「大人しく貰っとけよ、お前さんに似合いそうだしな」

 「必ずお返しします」

 「気にしなくていい、コイツが迷惑かけた迷惑料としてでも受け取ってくれ」



 そう言ってイゾウは再度、優子に背を向ける。

 優子は取り合えずショートパンツを脱ぐと着ていたシャツも脱ぎ、イゾウのくれたその着物を着る。

 帯で留めてイゾウに声をかけると振り返ったイゾウは改めて明るい所で優子を見て目を見開いて黙る。



 「あの?」

 「………ッ、なっなんでもない」

 「?」

 「おっ、お前さん名前は?」



 少し頬を染めて視線を逸らしたまま名前を尋ねられる。



 「ユウコと言います」

 「ユウコ……俺はイゾウだ」

 「イゾウさん」

 「送るか?」

 「いえ、戻り方は覚えてますから、それじゃあ遅くにご迷惑かけてすみませんでした。後日必ずこれ御返しにあがります」

 「いや!それはお前にやるよ……似合ってるから」



 そう言われて一瞬ドキッとした。

 乱した髪を掻き揚げながら少しだけ照れた様子はとても色っぽかった。

 これはマズイと思ったのは後の祭り。

 優子はとりあえずさっさとその場から立ち去ることにした。

 船から飛び降りると、『ハン○―』のピエロもどきが使っていたガムで肯定していた小船に飛び乗る。

 ガムを切るとそのまま優子は島へと戻り、ドッと疲れた様子で部屋に戻ると既に眠っていた瞳の隣にバフッと倒れこむ。



 「………お帰り」

 「ただいま」

 「どったの?」

 「疲れた」

 「同じく」

 「フラグは?」

 「回収済み、うちマルコでおk?」

 「私はエースだね……頑張ろうね、ひーちゃん」

 「うん、頑張ろう」



 そう言って長かった1日がやっと終わった。

 初日からこんなに大変でいいのかと疲れた身体を休めながら優子は先の事を考えてハァーと溜息をつくと今度こそ眠りについた。


 To Be Continued

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