夢回路

□第七話
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 翌日の朝はとても良い天気で、昨日から疲れ気味の精神と身体をいくらか軽くしてくれるような気分になる。

 ホテルに頼んでいた朝食が届けられた事で目を覚ました二人は手早くシャワーを浴びて荷物の中からお揃いで色違いの服を用意すると着替えを済ませる。

 鏡なんかは使わず互いの乱れた部分を直す。

 見た目が双子でソックリな事と、長年付き合ってきた為に覚えた互いの好み、今では鏡ではなく相手を見て直すようになった。

 それが一番確実だったから。


 洋風な朝食を食べながらお互いに昨晩あった事を報告し合う。

 どうなっているのか、どういうことがあったのかを知る事、それが大切な場合があるからだ。


 例えば、間違えて攫われた時、間違えて喧嘩をしかれられた時など、互いの事を知っていれば本人のフリをして対応できるからだ。

 どのキャラクターにフラグがたつのかも警戒しなくてすむことが増えてくる。



 この報告会は毎日、よっぽどのことがない限り行われる。





 第七話   白ひげ海賊団に入隊に向けて




 互いに白ひげを尋ねる理由をもっていた。

 借りた服とお礼を用意して二人は夜になってホテルを後にした。

 残された期限は後2日。

 この間に勝負を決めないと攻略自体が困難かつ、面倒になってくる。

 昨日と同じ様に酒場へと顔を出すとそこにはサッチと一緒に並んで酒を飲んでいるマルコとイゾウとエースが揃ってカウンターで酒を飲んでいた。

 優子と瞳が店に入ってきたのにまず気が付いたのは意外にもサッチだった。




 「うおっ!美少女二人!!ねぇねぇ君達、俺と飲まないかい?」




 サッチのその言葉にゆっくりと三人が優子と瞳へと視線を向ける。

 ペコリと頭を下げる優子とプイッとそっぽ向く瞳。

 対照的な反応にマルコは笑い、昨夜、優子と会っていたが瞳と会っていなかったイゾウは心底驚いたと言った顔で二人を凝視している。

 エースはエースで罰の悪そうな顔をして席を立ちゆっくりと優子の前にやってくる。



 「あっあのよ……」

 「はい?」



 言いにくそうに、視線を彷徨わせながらも頬を染めて優子へと意を決したように視線を向けるとガバッと頭を下げた。




 「昨日は悪かった!!」

 「ええっ!?」



 突然の謝罪に驚いてエースを凝視する。


 「俺、酒で酔っ払って何にも覚えてねーんだけど、イゾウから全部聞いた。本当に悪かった!!送ってくれた相手に、そのっ………押し倒してパンツ脱がすとか!!本当に悪い!!」

 「!!!!!!!!!!!!!!」



 これは何の嫌がらせだろうと優子は一瞬眩暈がした。

 イゾウに見られただけでもかなりの羞恥心だったのに、昨日に続いて今日は、こんな人数の前で昨日あった事を暴露されるとは。

 あまりの事に赤面して絶句した優子を見てイゾウが慌ててエースに持っていた扇子を投げつけた。



 「痛ってー!!!!何すんだよ!!」

 「何すんだじゃねー馬鹿が!!」

 「なんだよ!!イゾウが謝れって言ったんだろ!俺はちゃんと謝った!!」

 「あんな謝り方があるか!!」

 「はぁ!?何が悪いってんだよ!!」



 サッパリわからないとイゾウに食って掛かるエースにイゾウは青筋立てて怒鳴る。

 周囲から注目を集める優子をサッチとマルコは心底同情したように見詰める。

 余りの事に動けなかった優子は涙目になりながら何とか持っていた紙袋をイゾウへと差し出した。


 「あっあの……これ、昨日のお礼です、どうも……ありっ……ッ……ありがとうございました……失礼します!!」

 「おっおい!」



 クスクスと笑われる感じに堪えられなくなった優子は取り合えず持っていた御礼をイゾウに渡すと店を飛び出す。

 そんな優子に思わず固まるイゾウとエース。

 これは恥ずかしいと傍で見ていた瞳は優子に同情しながらも、取り合えずエースの傍にいくと思いっきり足を踏みつける。




 「痛ってーーーーーーーーっ!!てめー何すんだクソチビ!!」

 「黙れ超鈍感天然ソバカス野郎!!」

 「なにぃ!!」

 「なにぃっじゃねーし!さっさと追いかけて謝ってこい!!」

 「謝っただろうが!!」

 「こんな公衆の面前でパンツを脱がされましたって言われて恥ずかしくない女がいたら連れて来い!男と違うんだよボケッ!」




 ギロッと睨んで瞳がそう言うとエースは黙る。

 何が悪いのか未だにサッパリなのだが、出て行くときに見えた泣きそうな顔が気になってしまう事にエースは困惑する。




 「エース、行ってちゃんと詫び入れて来いよい、今のはあきらかにお前が悪い。ガキじゃねーってんなら女ってヤツを少しは理解しろぃ」

 「わっわかってる!」




 マルコに言われてエースは店を飛び出す。

 どっちに行ったかなんて分からないが何となく海へと向かって走る。

 気になってしまう、昨日会ったばかりの女なのにともんもんとしながら浜辺へと向かうと、夜の浜辺にぽつんと座る人影を見つける。

 近づくとハッキリとその姿を確認してホッとして静かに近づく。

 足を組んで俯いている優子の隣に座る。




 「さっきは悪かった!」

 「!?」



 まさかエースが追いかけてくるとは思ってなかった優子は顔を上げて驚いたようにエースを見る。

 上げた顔を見てエースは気まずそうに再度小さく謝る。

 うっすらと潤んだ瞳はもしかして泣いていたのかもしれないと何とも言えない気持ちになる。

 泣き虫は嫌いだった筈なのに、泣かせたのは自分。

 女を泣かせるなんて最低だと自分でも思う。




 「ごめん」

 「うっううん!いいの、ごめんね私こそ……ちょっと恥ずかしくて……逃げるような事じゃないのにね……なんていうか、ちょっと……疲れてたからかも、感じ悪くしてごめんなさい。すぐに戻るつもりだったの、本当にごめんなさい」

 「いやっ!お前は悪くねーよ、うん、悪いのは俺だし……悪かった」

 「泣き虫は嫌いでしょ?なのに」

 「何で知ってんだ?」




 その瞬間、ハッとする。

 つい何時ものくせで言ってしまってた。

 エースと恋愛関係にある時にとってしまう自分の行動、まさかまだそんな関係になっていないのに同じように探して見つけてくれるなんて思っても見なかったから、変な感覚になったのだ。



 過去と現在を混同してしまった。




 「なっなんとなく、そんな感じ……」

 「そうか、まあ……確かに泣き虫は嫌いだけど……今回は俺が悪いから」




 何がどう悪いなんてわかっていないくせに、罪悪感はある。

 そんなエースに優子は苦笑しながら立ち上がる。



 「戻ろっか」

 「………ココで話さないか?」

 「えっ?」

 「ほっほら、店だとサッチとか邪魔しそうだし」

 「私はいいけど……エース……君はそれでいいの?」

 「エースでいい、君とかむず痒い」

 「そっか、じゃあエースって呼ぶ」

 「ああ」




 そっと座り直す。

 それからいろんな話を互いにする。

 家族の事、兄弟の事。

 お互いに兄と姉と言う立場での話しはんなり盛り上がる。

 そして、互いに自慢もするのだ。

 じっと星空を見上げる。

 もうこんな綺麗な夜空を見るなんて現代の自分達の世界では限られている場所しかないだろう。

 でもココでは当たり前にあるそれに何だか涙が零れ落ちる。

 夜空を見上げて静かに涙を流したその姿を見たエースはドキッとする。

 誰かが泣いている姿を綺麗だと生まれて初めて思ったからだ。

 まるで引き寄せられるようにその頬に手を伸ばそうとするが、優子が自分の方を見た為に慌てて手を引っ込めて話を逸らす。


 異常な程、ドクドクと脈打つ心臓にエースは動揺を隠せなかった。



 こんな気持ちの意味をまだ知らない。







 エースのいなくなった後の店内は静かだった。

 何とも言えない空気の中、瞳はゴホンっと咳払いをするとマルコの傍まで行き顔を逸らしながらも持っていた紙袋を差し出した。


 「なんだよい?」

 「きっ昨日の……助かった、ありがとう」

 「フッ……今日は素直で気持ち悪いよぃ」

 「なっ!人がっ………フンッ」




 吊られてまた悪態をつきそうになって瞳は慌てて口を閉じる。

 少し離れた場所に座りマスターに食べ物とカクテルを注文するとビールを持って少し頬を赤くしたほろ酔いサッチがやってくる。




 「君がマルコが言ってた子か、マルコのヤツ……こんな美少女だったなんて聞いてないってーの!」

 「何が美少女だよぃ、ただのガキだろぃ」



 奥からそう言ったマルコに瞳はピクッと反応するが我慢我慢と口を結ぶ。

 とにかく何か食べて黙っていようと届いた食べ物をバクバクと食べる。

 その時、優子からお礼としてもらった袋をジッと見ているイゾウに気が付いて瞳はフーンっと心の中で笑う。

 イゾウのフラグはどうやら優子で間違いないようだ。

 フラグは恋愛をするにあたってかなり重要だ。

 仲間からフラグを持つ人物が現れた場合、上手くやっていかないと全体問題になる。

 仲間同士で不仲とかになる事だってありえる。

 そうならないように動かなければならない。

 ハッピーエンドは口で言う程簡単ではないのだ。




 「君、名前は?」

 「は?」

 「俺はサッチ」



 嫌な予感がしてきた。

 おいおい、まてまてである。

 マルコがターゲットの自分に何故よりにもよってこの人のフラグが立ちそうなんだと瞳は頭を抱える。

 マルコとサッチが長い付き合いなのは事実、そんな友情があつい二人のフラグとは正直簡便してほしいところである。




 「ヒトミ」

 「ヒトミちゃんかぁ」

 「デレデレしすぎで気持ち悪いよぃ」

 「だまらっしゃいマルコ!ヒトミちゃん、今夜暇?俺とよそに飲みに行かない?」




 これは本気なのだろうか?と瞳は訝しげにサッチを見る。

 だが、ヘラヘラ笑っている所を見るとまだセーフなのだと判断。

 サッチが本気になる決め手みたいなものをまだ自分は何も披露してはいない。



 「ココでいいじゃん、移動すんの面倒くさい」

 「なっなら、隣いい?」

 「別にいいけど……」




 不気味な程積極的だ。

 瞳は本当に意味がわからないと視線をマルコへと向けると視線が合う。

 暫く見詰め合うとマルコは自分のグラスを持って瞳の反対側へと据わる。




 「何しにきてんだよマルコ!俺とヒトミちゃんの邪魔する気かよ」

 「ロリコン野郎が犯罪を犯さないか監視しに来たんだよぃ」

 「誰がロリコンだ!」

 「お前しかいないよい」

 「キィーーーーこのチキンめっ!」



 自分を挟むようにして言い合いを始める二人に瞳はジッと観察する。

 その時、視界に入った人物を見て思わずギョッとする。

 いるのは分かっているがまさかこんなに早く会うなんて思ってなかった為に一瞬、拳を強く握り締めてしまった。

 持っていたグラスに静かに亀裂が入る。

 それを割らないようにしながら一息ついて気持ちを落ち着ける。

 そして、窓の外をジッと見ている人物に瞳は心の中でガッツポーズをする。



 巨漢の身体に特徴的な笑い。

 内に秘めた野望を持つ男はジッと優子の出て行った方向を見ている。


 これは絶対にフラグでしょ?と思う。



 のちの黒ひげ海賊団船長、マーシャル・D・ティーチ。


 彼の今回のターゲットは優子で間違いなさそうだ。


 To Be Continued

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